
ブラジルは、南米にある、面積・人口・経済規模が最も大きな国です。
面積は世界第5位で、南米大陸の約半分を占め、アメリカよりは小さいものの、ロシアを除くヨーロッパ全土よりも広く、この広大な国土の中に、世界最大のアマゾン熱帯雨林などの雄大な自然を擁します。
航空機、自動車、エネルギー、鉄鋼、電気・電子等の産業を抱える工業国であるとともに、鉱物や石油などの天然資源も豊富に有します。
また、世界最大の農産物純輸出国で、今後、人口爆発にともなって食糧難の時代になると、世界の食糧供給の中心的な役割を果たすと考えられています。
「あなたの大切なものはなにですか?」
「カトリックの教えが世界中にひろがることです」


ブラジルでは、もともとアジアからやってきた先住民(グアラニー人)たちが、原始的な農業をして暮らしていました。
しかし、1500年にポルトガル人に発見されると、それから約300年にわたってポルトガルの植民地としての歴史を歩みました。
この影響から、ブラジルではポルトガル語が公用語として使われており、ポルトガル語を話す人の人口が最も大きい国です。
また、国民の3/4がカトリックの信者で、カトリックの信者が世界で最も多い国でもあります。
国民の約半分がヨーロッパ系、その他をヨーロッパ系と先住民系との混血系や、アフリカ系が占めます。
19世紀半ばからはポルトガル以外の多くの国からも移民を受け入れ、移民国家特有の人種的文化的多様性を有します。

日本からも多くが移民としてわたり、世界最大の日系人社会が存在します。
また、ブラジルから日本に移住する人も韓国・中国に次いで3番目に多く、古くから日本と強い結びつきがあります。
「あたしの大切なものは家族だよ」


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「僕はお勉強が大事」


ブラジルは、建国以来、先進国からの累積債務によってハイパー・インフレが生じ、一時は財政破綻寸前に陥りました。
しかし、新通貨の導入など大胆な経済政策によって危機を回避。
その後は、広大な国土・豊富な人材・豊富な天然資源を背景に新興国と呼ばれるほど飛躍的な経済成長を達成しています。
新興国と呼ばれる国は、ブラジルの他に、ロシア、インド、中国があり、これら4つの国の頭文字をとって『BRICs』と総称されています。

しかし、このような目覚しい経済成長をする一方で、その成果が適正に分配されておらず、世界的にも大きな所得格差を生み出しています。
そこで、ブラジルは、国民の最低所得を保障する『ベーシックインカム法』を法制化しました。
現在の受給者数は人口の3分の1にも及びます。
また、貧困層の子どもには子ども手当てを支給するなどして、貧困層の底上げにも力を入れています。
こうした政策がブラジルの経済成長を支えているとも言われています。
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「僕の大切なものは食べ物だよ」


かつて日本は、輸入大豆の8割以上をアメリカから輸入していました。
しかしながら、アメリカは1973年に大豆が不作となると輸出を規制し、日本で豆腐などの値段が高騰して社会問題になりました。
そこで、日本は1980年代初頭からブラジル政府と共同で、ブラジル中西部の半乾燥地域セラードの農業開発を進めました。
セラードとは、首都ブラジリア一帯からアマゾン川までの広大な草原で、もともと土壌がアルミニウムを含む強酸性のため、農作物が育ちにくい不毛の土地でした。
日本政府は多数の専門家を送りだし、石灰で中和してセラードの土壌を改善し、品種改良にも成功しました。
この結果、不毛の大地は豊かな穀倉地帯へと生まれ変わり、大豆生産量は約40倍に増え、ブラジルはアメリカに次ぐ世界第2位の大豆生産国となりました。

セラードの生産能力にまだ伸び白があり、最終的には、10億人分の食糧を賄えるようになるのではないかという予測もあります。
ただ、この農業開発の裏側で、セラードに生息する固有種が絶滅することを危惧する声も高まっています。
そこで、日本は、分断された生態系を巨大な緑の回廊でつないで動物が移動しやすくするプロジェクトを実施しました。
どのようにして農業開発と生態系の保全とを両立させるかが今後の課題となるでしょう。
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「わたしは世界の平和を望みます」


近年、ブラジルはその経済成長を背景に、ブラジルは国際社会における地位の向上・発言力の強化を目指して積極的に活動しており、その活動は徐々に実を結びつつあります。
先進国首脳会議は、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、日本、フランス、ロシアというG8から、アルゼンチン、インド、インドネシア、欧州連合、オーストラリア、韓国、サウジアラビア、中国、トルコ、南アフリカ共和国、ブラジル 、メキシコを含む『G20』へと移行しようとしています。
また、ブラジルは、日本、ドイツ、インドとともに『G4』(国連安保理常任理事国進出を狙う4カ国グループ)を形成し、将来の国連安保理の常任理事国入りを目指しています。
常任理事国入りへの道には障害もありますが、国際政治におけるブラジルの存在感はこれからも増していくでしょう。
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「ぼくの大切なものは家です」


ブラジルのほぼ全ての大都市の郊外には、『ファヴェーラ』と呼ばれる不法居住者の建てた小屋の並ぶスラム街が存在します。
建物は非常に込み合っており、下水などの施設も不十分。
電気は盗電され、都市周囲の山の斜面にあるため、大雨の際には地すべりで犠牲者がでます。
また、麻薬の売買などの違法行為がはびこり、殺人などの犯罪もしばしば生じます。
このような劣悪な環境にもかかわらず、農村部から都市部への人口流入に歯止めがかからないため、ファヴェーラの住民は増え続けています。

このような状況下、ドイツ人のウテ=クレーマー氏は、『モンチ・アズール』という団体を設立し、ファヴェーラの住民との協力しながら、健康・居住環境・教育などの分野についてシュタイナー教育に基づいて改善運動をしています。
シュタイナー教育とは、子どもが主体的に行動できるようになることを目的とし、そのために特に芸術活動を奨励する教育法です。
元々富裕層の子女にしか門戸の開かれていなかったシュタイナー学校が、ファヴェーラに住む子供たちにも開かれました。

また、ファヴェーラで暮らしている子どもたちは、病気になって医師による治療を受けても、しばらくするとまた病気になってしまうことがしばしば起こります。
これは、子どもが不衛生な環境にもどってしまうことに原因がありました。
そこで、小児科医ヴェラ・コルデイロ氏は、『ヘナセ(再生)』という団体を創設し、子どもの母親に衛生に関する教育をすることによって、子どもが病気を再発してしまうことを防ぐ活動をしています。
この活動によって再入院率が60%も下がるという目覚しい効果がえられ、この活動を全国的に展開しようと尽力しています。
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「わたしの大切なものは家族と友達です」


ブラジルは、インドについで、2番目にハンセン病が蔓延している国です。
ハンセン病は皮膚がただれて一目で区別できるため、歴史上もっとも忌み嫌われてきた病気です。
現在では、ハンセン病は感染力が非常に小さいことがわかっており、また完治する病気です。
ブラジル政府は、ハンセン病患者を社会や家族から強制的に隔離して療養所に入所させる政策を1920年から1986年まで実施しており、ブラジル政府はこの政策の犠牲になったハンセン病患者への賠償として終身年金を支給することを決定しました。
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「僕は森林が大切だと思います。」


ブラジルには世界最大の熱帯雨林であるアマゾン熱帯雨林があります。
アマゾン熱帯雨林は、その二酸化炭素の吸引量の高さから『地球の肺』とも呼ばれています。
しかし、いま、このアマゾン熱帯雨林が急速に失われようとしています。
森林の不法伐採や焼き畑が横行しているからです。
この広大なアマゾン熱帯雨林が消失してしまうと、単にアマゾンの生物多様性が失われてしまうのにとどまらず、地球温暖化、砂漠化、気候変動など地球的規模の環境問題をもたらすと考えられているため、アマゾン熱帯雨林の状況には世界中の人たちが危機意識を抱いています。

ブラジル政府は、このアマゾン熱帯雨林を保全するために、衛星画像により不法伐採を監視するシステムを導入しました。
しかしながら、このシステムでは地上が厚い雲に覆われると監視することができませんでした。
これを受けて、日本政府は『陸域観測技術衛星ALOS』を用いて雲の状況にかかわらず地上を監視できるシステムを構築するための技術協力を行っています。
このシステムが完成すれば、アマゾン熱帯雨林の不法伐採に歯止めがかかることが期待されています。
「わたしの大切なものは家族と自然です」


アマゾン熱帯雨林の不法伐採を取り締まることは必要ですが、それだけでは不十分と考えられています。
なぜなら、アマゾン熱帯雨林の不法伐採の背後には、小規模農家などが生活を維持するためにやむなく行っているという貧困問題が横たわっているからです。
そこで、森林の保全と貧困問題とを解決するための方法として、農業と林業を組み合わせた『アグロフォレストリー(森林農法)』が注目されています。
アグロフォレストリーでは、樹木作物を中心に植栽し、樹間で動植物を育成する農法です。

このアグロフォレストリーをアマゾン熱帯雨林ではじめて実施したのはアマゾン河口のトメアスという街にいる日系人たちでした。
トメアスの日系の移民たちは、1950年代まではコショウを単一で栽培していましたが、1960年代にコショウの病気が蔓延して大打撃を受けました。
その教訓を生かし、1980年代からはコショウが栽培されていた場所に果樹やカカオなどの植え付けを開始しました。
これがアマゾンにおけるアグロフォレストリーの始まりでした。
このアグロフォレストリーの試みが評価され、トメアス総合農業共同組合の代表として、小長野道則氏はルラ大統領より2010年度地域発展貢献賞の最優秀賞を受賞しました。
「あたしは大好きな自然豊かな風景を守りたいです」


1992年に、ブラジルのリオデジャネイロで、『環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)』が行われました。
この会議で、持続可能な開発を旨とする『アジェンダ21』が採択されるとともに、各国は『気候変動枠組条約』と『生物多様性条約』に署名しました。
地球サミットの最終日、当時12歳だった日系カナダ人の少女セヴァン=スズキが各国の首脳を前にしてした語った言葉は語りぐさとなっています。
「どうやって直すのかわからないものを、こわしつづけるのはもうやめてください」

2002年には、南アフリカのヨハネスブルグで地球サミット(リオ+10)が開催され、アジェンダ21の進捗状況が確認されました。
そして、2012年には、再びリオデジャネイロで地球サミット(リオ+20)が開催されます。
このリオ+20では、貧困削減と持続可能な発展の両立を目指すグリーンエコノミーや、持続可能な発展のための制度枠組み等が主な議論となります。
環境破壊をしたい人なんて誰もいないはずですが、経済活動を営む結果として環境破壊をしてしまっているのが現実だと思います。
こうしたジレンマを打開するため、リオ+20で扱う議題はきわめて重要な意味をもちます。
地球環境問題は、私たちだけではなく、私たちの次の世代を生きる人たちに影響を及ぼす重大な問題です。
この美しい地球を次の世代に渡すため、人類の英知を結集してリオ+20が成功することを心から祈りたいと思います。

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絵と写真を集めた人:
ピースボートの人々、山本敏晴
画像データを編集し、文章を書いた人:
矢野弘明
編集完了日:
2011年9月3日
監修・校正:
山本敏晴
企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/
人物が写っていない画像は、
以下のフリー素材会社から提供を受けたものもあります。
(株)データクラフト「素材辞典」
http://www.sozaijiten.com/