岩手県の南部に位置する地域です。

岩手県は、日本の都道府県において2番目に大きい面積をもっています。
歌人の石川啄木(いしかわ たくぼく)や、詩人の宮沢賢治、
学者の新渡戸稲造(にとべ いなぞう)など、
多くの有名な人物が岩手県出身です。

岩手県は、わんこそば、りんごの生産地(全国2位)として有名です。
県内には日本最大の民間総合農場である小岩井農場があります。
小野義真(おの ぎしん。日本鉄道会社副社長)、
岩崎彌之助(いわさき やのすけ。三菱社社長)、
井上勝(いのうえ まさる。鉄道庁長官)が協力して、
この農場を明治時代につくりました。
3人がそれぞれの名前から頭文字をとって、
「小岩井」という名をつけました。
小岩井農場によく足を運んでいた人物の一人が、宮沢賢治です。
短編集「注文の多い料理店」のなかにある、
「狼森と笊森、盗森(おいのもりとざるもり、ぬすともり)」をはじめ、
宮沢賢治の童話や詩には小岩井農場がたくさん登場しています。

海沿いの南側にはリアス式海岸
(海水の侵食により凹凸のある複雑な形をしている海岸)があります。
この海岸沿いに、宮古市、山田町、大槌町(おおつちちょう)、釜石市、
大船渡市、陸前高田市などの市町村と、100以上の漁港がならんでいます。
2011年3月11日の東日本大震災による大津波は、
これら海岸地域に暮らす人々をはじめ、
岩手県全体で5000人ちかくの命を奪いました。
「平和が大切だって思います。」

(この絵の太陽に使われている、円の中に縦と斜めの線がある印は、
平和を象徴する「ピースマーク」です。
1958年にイギリスで考案されました。)
その岩手県にある水沢区ですが、
以前は水沢市として、独立した市でした。
それが周辺4つの市町村と合併し、2006年2月に奥州市が誕生しました。
これにより、水沢市は奥州市水沢区として新しい歩みをはじめました。

水沢区のある奥州市は、土地の2割以上が田んぼや畑で、
稲作をはじめとした農業が盛んな地域です。
農業用以外の土地は、その半分以上が自然の山々ですが、
岩手県は自然の力を利用したエネルギー開発に力を入れています。
地球内部の熱によって電気をつくる「地熱発電」においては、
岩手県が日本で初めての発電所を有しており、その発電量は全国2位です。
「地球を守ることが大切だと思います。」


東日本大震災によっておきた、福島第一原子力発電所の事故を受け、
「今後、どのようにエネルギーをつくりだすか」ということを、
世界各国はもう一度考えています。

そのような中で、地熱発電などの自然エネルギーは
今、大きな注目を浴びています。


・・・
水沢区の地域では、約4万年前すでに人間が生活を営んでいました。
平安時代の9世紀、水沢区の周りには、
蝦夷(えみし。東北地方や北海道に住む反朝廷派の人々)が多く暮らしていました。
征夷大将軍の坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が、
蝦夷との戦いに勝つと、彼はこの地域に胆沢城(いさわじょう)を築きました。
19世紀に入り、明治時代になると水沢町がうまれました。
昭和時代になると、水沢町が周囲5つの村と合わさって水沢市ができました。
さらに、2006年になると、奥州市水沢区が発足しました。
「かざぐるまです。小さい頃の思い出が大切です。」

11世紀には奥州藤原氏が活動の拠点を
(奥州市のすぐ隣り、南東に位置する)平泉(現・平泉町)におきました。
奥州藤原氏がのこした平泉の遺産は、のちに世界が誇る文化遺産となりました。
2011年6月、
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が主催する世界遺産委員会は、
平泉を世界文化遺産に登録しました。

登録された平泉の文化遺産は以下の資産です。
1.中尊寺(ちゅうそんじ)
2.毛越寺(もうつうじ)
3.観自在王院跡(かんじざいおういんあと)
4.無量光院跡(むりょうこういんあと)
5.金鶏山(きんけいさん)
平泉が世界文化遺産に登録された最大の理由は、
その理念・理想として、『争いのない平和な世界』を求めた点です。
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水沢区には、国立天文台の観測所があります。
この施設の前身である水沢緯度観測所の初代所長を務めた
木村栄(きむら ひさし)は、日本を代表する天文学者の一人です。

(キャンパス内の電波望遠鏡)
天文台とは、宇宙にある星や銀河、衛星などを観測をしたり、
その研究をする施設です。
木村栄は、この施設で、地球の自転軸の傾きを調べていました。
地球の自転軸は、「南北軸」とは完全に一致していませんでした。
地球の自転を説明するための方程式を完全なものにするため、
(誤差を補正する)『Z項』という概念を、木村は生み出しました。

Z項の発見は、明治時代における日本で初めての世界的な業績でした。
この功績により、日本政府は1911年の第1回学士院恩賜賞と
1937年の第1回文化勲章を、木村栄に贈りました。

宮沢賢治は、この観測所をたびたび訪れていました。
童話「風の又三郎」のもととなった「風野又三郎」には、
この観測所でスポーツを楽しむ木村栄が描かれています。
この観測所は、宮沢賢治の代表作である「銀河鉄道の夜」
の原点になったともいわれています。
Z項の功績を称えて、水沢区には奥州市文化会館Zホール、
奥州市総合体育館Zアリーナ、水沢産直組合Zプラザアテルイなど、
Zのつく施設がたくさんあります。
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「あなたの大切なものは何ですか?」
「しあわせを感じられることです。」

水沢市は、高齢化や産業の変化などにより、
一つの市だけでは、行政と財政の土台をしっかりとさせることが
難しくなりました。
岩手県は2006年2月に、
水沢市、江刺市、前沢町、胆沢町、衣川村の5市町村を合わせて1つにし、
奥州市をつくりました。

かつて、明治時代の日本には、
70000以上の町や村がありました。
地方の政治を近代的なものにするため、町村の管理を効率よくするために、
日本政府は、市町村の大合併を行いました。
明治時代には、70000以上の町や村を5分の1にし、
昭和時代には、それからさらに3分の1の5000以下にまで減らしました。
そして、平成時代に入ると、
政府は「平成の大合併」とよばれる市町村合併を行いました。
1999年4月から2010年3月までの約10年間で、
総務省は、3000以上あった市町村の数を半分に近い約1700にしました。

一般に、市町村の合併においては、
以下のような長所と短所があります。
<長所>
1.住民の利用できるサービスや施設が増える
2.役所が1つにまとまるため、必要経費が減る
3.一定の期間中に合併をすれば、市町村が国から支援金を受けられることがある
<短所>
1.中心部から離れた地域の整備が行き届かなくなる
2.役所から住民に対するサービスのレベルが低くなる
3.合併前にあった各市町村の伝統や文化を、
今までと同じように維持することが難しくなる
良い面をのばしながら、課題を解決し、
奥州市は新しい市づくりを始めています。
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「あなたの大切なものは何ですか?」
「絶対にあきらめない心です。」

2011年3月11日におきた東日本大震災は、
岩手県に大きな被害を及ぼしました。
5000人にのぼる人々の命を奪い、
30000棟ちかくの家々を津波によって流し、
公共の土木施設や産業においては、8000億円を超える被害を出しました。
これを受けて、国際連合世界食糧計画 (WFP)は、
震災で被災した岩手県、宮城県、福島県にある17の市町村にて、
救援物資などの倉庫として45張の大きなテントと、
事務作業などができる36棟のプレハブ(組み立て式)事務所を設けました。
「前向きな気持ちです。」

被災した地域では、屋根のある公共の場所が足りず、
国際連合世界食糧計画による大きなテントがとても役に立ちました。
テントは国内外各地から届いた支援物資や、炊き出しに使う食料を保管し、
届いた物の在庫を管理する場としての役割もはたしました。
また、このテントは物の保管だけでなく、
仮設の幼稚園や商店など、人々が生活を営む場としても活躍しました。
「部活動で使っているバッグです。
この中には、負けない心が入っています。」

震災から2か月目の2011年6月、
岩手県山田町は、この国連機関から届いたテントを使って、
仮設の商店街をつくりました。
地震が起きる前、この町には約200店の商店がありましたが、
その8割を津波が流しました。
商店街が立ち直るための第一歩として、
9つの店が仮設商店街である「なかよし公園商店街」をはじめました。
商店街の開店は人々の生活と心の支えになりました。
・・・
「あなたの大切なものは何ですか?」
「学校のともだちです。」


東日本大震災の津波は、教育の分野にも大きな打撃を与えました。
岩手県では、80人近くの生徒が亡くなりました。
津波は多くの命を奪い、
そして、たくさんの心を傷つけました。

これを受けて、岩手県の教育委員会は、
「いわての復興教育」プログラムを進めています。

このプログラムは、以下に挙げる4つの視点から、
教育を見直し、もう一度つくりあげ、
岩手県内の「復興教育」を行っています。
1.ひとをそだてること
2.震災の体験から学ぶ
3.学校としてのつながりある指導
4.それぞれの学校に対応したすすめ方


子どもたちの心にうけた傷が少しでもやわらぎ、
安心して学校に通えるようこのプログラムを進めていくと、
岩手県の教育委員会は述べています。
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「あなたの大切なものは何ですか?」
「心臓です。」

岩手県では、高齢化や過疎化(地域の人口減少により、地域住民において、
生活水準などを保つことが難しくなる状況です)によって医師が不足しています。
医師不足により、医療施設から遠い場所で暮らす住民への医療サービスが、
十分に行き届かないことが問題となっていました。

奥州市のとなりにある遠野市では、
パソコンや携帯電話などのインターネットを通じて医療サービスができる
プロジェクトをはじめました。
この医療サービスで、遠野市民はそれぞれがパスワードと、
自分専用の記録ページをインターネット上に持つことができます。

市民は主に以下のことができます。
1.すこやか親子電子手帳(Web母子手帳)−0〜19歳頃が対象
:妊娠中から出産後そして子どもが大きくなるまでの成長記録、
乳幼児健康診断や予防接種の確認、
保健師や助産師に相談ができるウェブ上の交換日記などができます。
2.すこやか健康増進電子手帳(Web健康手帳)−20〜64歳頃が対象
:体重や血圧、肥満度、これまでに歩いた歩数などの記録、
特定健康診断や癌健康診断結果の確認や印刷ができます。
3.健康長寿ネット−65歳〜が対象
:高齢者が心身健やかに生きるための情報を、
長寿・医療・介護の3分野から得ることができます。
この取り組みにより、医療施設から離れていても、
市民が今までより安心して生活できるようになりました。
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「あなたの大切なものは何ですか?」
「環境を守っていくことです。」

水沢区では、環境の変化により、
今まで生息していたカジカ(魚の一種)が少なくなってしまいました。
これを受けて、水沢区のNPOである
「古代の流れ源流「網代滝(あじろたき)」を守る会」は、
水沢区にある川とその周りの自然環境を守る活動と、
「みずさわエコキッズクラブ」事業による自然体験を提供しています。
「水沢の自然や水が大切です。」


網代滝は江戸時代に発見されました。
森林の奥深く、谷間に流れる高さ7mほどのこの滝は、
かつて「幻の滝」と人々がよんでいました。

このNPOは、主に以下の活動を行なっています。
1.網代滝近くの整備(下草を刈ること、ゴミ拾いによる川の掃除)や、
遊歩道・林道の補修
2.周辺の小中学校と協力し、総合的な学習の時間をもうけること
3.網代滝とその周りにおける自然観察や、
水の中にいる生物と水質の調査
これらの活動により、
近年ちかくの大久保川にカジカが現れるようになりました。

公益財団法人・コカ・コーラ教育・環境財団は、
「コカ・コーラ環境教育賞主催者賞」を
このNPOが取り組んだ「みずさわエコキッズクラブ」事業に贈りました。


水沢区の宝物である幻の滝と周辺の川や自然を守り、
長く受け継いでいきたいとNPOは述べています。
・・・
岩手県は、多くの伝統を今も受け継いでいます。
その一つに、水沢区が行う黒石寺蘇民祭(こくせきじ そみんさい)
という祭りがあります。

日本政府は、岩手の人々が1000年以上前からおこなっているこの祭りを、
国の無形民俗文化財(古く昔から人々の間で伝わりその価値が高いため、
国が記録を保存している文化的財産)に指定しました。
「あなたの大切なものは何ですか?」
「天使のお守りです。」

薬師如来への信仰心をもととして、炎と裸の男性が主役のこの祭りは、
寒さの厳しい2月に、天台宗の黒石寺で夜にはじまり翌朝まで行われます。
祭りは、以下のように行われます。
1.裸参り(22時〜)
2.柴燈木(ひたき)登り(23時〜)
3.別当(べっとう)登り(翌2時〜)
4.鬼子(おにご)登り(4時〜)
5.蘇民袋(そみんぶくろ)争奪戦(5時〜)
東北電力株式会社は、祭りの際に参加者が着替える場所である、
「おこもり小屋」の撤収・清掃作業を行なっています。

最後に、この記事を書いた私の感想を書きます。
年月は流れても、失うものがあっても、
守りついできたものを伝え、新しい光を見つける力を、
水沢区は、そして岩手県はもっていると、私は感じました。
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾(欲)ハナク
決シテ瞋ラズ(怒らず)
イツモシヅカニワラツテヰル(いつも静かに笑っている)
(中略)
サウイフモノニ(そういうものに)
ワタシハ
ナリタイ
(「雨ニモマケズ」 宮沢賢治)
・・・
・・・
絵と写真を集めた人:
山本敏晴(2004年、2008年)
画像データを編集し、文章を書いた人:
渡部香織
編集完了日:
2012年6月29日
監修・校正:
山本敏晴
企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/
人物が写っていない画像は、
以下のフリー素材会社から提供を受けたものもあります。
(株)データクラフト「素材辞典」
http://www.sozaijiten.com/