
モロッコ王国、通称モロッコはアフリカ大陸北方の国の中で唯一の王国です。
アフリカ大陸の北西端に位置しており、
面積は西サハラを除いて44.6万平方キロメートル。
日本のおよそ1.2倍に相当します。
人口は3,199万人(2009年時点)で、日本の4分の1程度です。
首都はラバトで、民族はアラブ人、ベルベル人、
そして両者の混血の人々が暮らしています。

公用語はアラビア語とフランス語です。
フランス語は、モロッコが昔
フランスの保護国であったという歴史に関係しています。
「あなたの大切なものはなんですか?」

「ぼくの大切なものはモスクです。
イスラム教徒としてお祈りはかかせません。」

国が定めている宗教はイスラム教で、
国民の99%がイスラム教のスンニ派です。
しかし、国がキリスト教もユダヤ教も禁止をしていないことから、
穏健的なイスラム国家として、イスラエルとも良好な関係を維持しており、
中東和平に大きな役割を果たしています。
また、世界遺産でもあり、国内外から多くの観光客が集まる都市、
マラケシュの旧市街には、クトゥビーヤ・モスクという
市内で最も大きく、有名なモスクがあります。
これらの歴史的な建物は、国内経済の中心に観光業をおいているモロッコにとって
とても重要な存在になっています。

産業の面では水産業とリンを中心とする鉱業がさかんです。
この両方で日本政府はモロッコの支援をしてきました。
特に水産業では、水産物の加工や
海運に関わる船員の教育などに力を入れてきました。
こうした取り組みは、モロッコの技術向上に限らず
日本との良好な外交関係作りに大きく影響を与えてきました。

また、モロッコは日本から学んだ
漁業や水産物加工の技術を
更に他のアフリカ諸国に教えてあげています。
「あなたの大切なものはなんですか?」

「わたしの大切なものは車です。
お買い物に行くのに便利だからです。」

モロッコは日本と同じく、石油や天然ガスなどのを持たない国です。
そのため、エネルギー需要の95%を輸入に頼っています。
一方で、経済発展によりエネルギー需要は年々増してきています。
そこで、モロッコ政府はエネルギー源の多様化や
エネルギー依存の軽減等を目指して、新しいエネルギー資源を求めており、
太陽光発電に積極的に着手し始めました。

これを受け、世界銀行はモロッコの太陽光発電プロジェクトに対する
4,320万ドルの融資を承認しました。
また、この計画の先駆けとなったのは、平成21年におこなわれた
日本のODAによる「太陽光を活用したクリーンエネルギー導入計画」です。
今後も、低炭素社会の実現を目指すため、日本の優れた環境関連技術を
活用し、このような取組の支援が進められようとしています。

順調な経済発展をしているモロッコですが
その理由の1つとして欧州市場へのアクセス(地理的な近さ)の良さがあげられます。
特にフランスとは、かつてモロッコがフランスの保護領だったという
歴史的な関わりから、モロッコにとって最大の貿易相手国になっています。
モロッコは、経済のグローバル化を進めているのです。
「あなたの大切なものはなんですか?」

「わたしの大切なものは道路です。」

経済のグローバル化は進んでいますが、それを阻む現状もあります。
モロッコは地方の高速道路や鉄道網の整備といった
基幹インフラ整備が不十分なのです。
そのため、国内外での人の移動やモノの流通が
うまくいっておりません。
またこの問題は、地域間の格差を広げる要因ともなっており、
バランスのとれた経済・産業促進が大きな課題となっています。

そこで毎年、ローカルNGOが地方インフラの整備にあたっています。
このローカルNGOの活動には「草の根・人間の安全保障無償資金協力」
の制度として、日本は在外公館が中心となって資金協力を行っています。
「あなたの大切なものはなんですか?」

「わたしの大切なものは学校です。
みんなで勉強するのが好きです。」

地域格差があるのは経済面だけではありません。
モロッコでは、教育面でも大きな格差があるのです。
例えば地方の識字率の低さがそれを物語っています。
以下は、モロッコの識字率のデータです。
全国平均→57%
都市→71%
地方→40%
※2004年時点
これらの識字率の低さは年々改善されていっていますが
いぜんとして地域格差は埋まらないままです。
これは、社会・経済的格差によるものです。
人口の約14%が貧困にあえぐモロッコでは
そのしわ寄せが、児童労働などによって
子どもにまでのしかかっているのです。

また、就学率における格差も大きいです。
都市部を中心とする富裕層は、大卒であるのが当たり前ですが
それに対し、地方での就学状況はけして良くありません。
モロッコの小学校入学率は90%を超えるものの
6年生になるまでには10人に4人は小学校をやめてしまう現状です。
その理由としては、学校教育の質の低さにあると言われています。

そこで、この現状を少しでも改善しようとユニセフは
【子どもにやさしい学校】づくりを支援しています。
この支援は、学校と地域が一体になり
自らで学校教育の問題点と、その改善方法を考え
計画・実行していくことをを促すものです。
例えば、文字を理解できないことが学校をやめてしまう
理由の1つにあげられ、
学校や親が自ら動き、改善をはかっている学校もあります。

ただ支援をするのではなく
自立するための手段を教える……
そんなカタチの支援が今、おこなわれているのです。
「あなたの大切なものはなんですか?」

「わたしの大切なものは病院です。」

経済、教育と並んで地域格差が大きいのが医療です。
モロッコは妊産婦死亡率が高い国で、全国平均が10万人中227人と
隣国チュニジアの平均45人と比べるとその悲惨さがわかります。
特に地方村落部の死亡率は高く、都市部と比べ1.5倍も多いという現状です。
その最大の理由として、地方の公的医療機関の設備
技術水準の低さがあげられます。

そこで、対策として作られたのが「女性健康手帳」です。
これは、日本政府の無償資金協力によって来日したモロッコ人医師が
日本の母子健康手帳を参考にし、モロッコ女性のための健康手帳を
作りたいという報告書を提出したのがはじまりでした。
この報告書に保健省大臣が賛同したのを機会に、日本の専門家と
モロッコ人研修員たちが共同で原案を作成しました。
更にこの原案によってUNFPA(国連人口基金)から200万円の資金を獲得し
半年後には女性健康手帳の完成にいたりました。

この女性健康手帳には、妊婦の血液型や妊娠中の経過などの情報が
記録されており、輸血対応の迅速化や問題の早期発見等
妊産婦ケアの質の向上につながりました。
また、地方では数の足りない助産師の負担の軽減など
具体的改善点がすでにいくつもあげられています。
「あなたの大切なものはなんですか?」
「ぼくの大切なものは国王です。
貧困のない国にしてくれるのを期待してます。」
(ここに挿入する絵と写真を現在、検討中です。)
(参考 Moro_17_a.jpg 17_omaru_11_a.jpg)
これまでに紹介した経済、教育、医療、あらゆる地域格差の是正のために
1999年に即位したモハメット6世国王は
貧困撲滅、失業・雇用等の社会問題や
教育問題といった国民に軸足を置いた政策をかかげました。
今、モロッコでは、この国民の立場に立つことのできる
国王に期待の目がそそがれています。

また、国王は地域格差だけでなく
男女格差の改善をするような方針も打ち出しています。
しかし、他の中東諸国と比べると、その格差は次第に縮まりつつあります。
特に1993年にモロッコ政府が「女性差別撤廃条約」に批准したことが
大きく、また、1990年以降女性の不利な立場を改善するために
憲法の改正などもおこなっています。
「あなたの大切なものはなんですか?」

「わたしの大切なものは技術です。
美しい織物のマットを作れるようになりたいです。」

進みつつある女性の社会進出ですが、
それでも農村部の女性の就業率は低く、問題になっています。
ここでも地域格差があるのです。
そこで、彼女たちが持つ伝統的な技術で作られた商品を
公正な価格で買い取り、販売するフェアトレードの動きがいくつもあります。

日本のフェアトレードショップ「サハラへの道」も
ベルベル族の人々の作った織物のマットの販売を通し
彼女たち自立を支援しているお店の一つです。
「あなたの大切なものはなんですか?」

「わたしの大切なものは木です。」

サハラ砂漠を持つモロッコで忘れてはならないのは、
降雨量が少ないがゆえの砂漠化問題です。
この砂漠化を防ぐのに重要な役割を担っているのが
乾燥に強いアルガンツリーです。アルガンツリーはサハラ砂漠で唯一、
自生している植物で、かつてはモロッコ全土に生息していました。
しかしこのアルガンツリーも開墾のための伐採で数が減少しています。

そこで、活動の利益の一部をアルガンツリーの
植林活動に使用している組合があります。
モロッコの女性達による、タルガニン生産協同組合です。
アルガンツリーからとれるアルガンオイルを生産して利益を得ており、
この活動は、女性の社会的地位向上を促すものになっているのと同時に
得られた利益の一部を、女性達の職業・識字教育などにも使用しています。

また、日本の企業である株式会社ニュートリションアクトは
タルガニン生産協同組合から購入したアルガンオイルを使った
化粧品を販売し、間接的に砂漠化防止やモロッコの女性を支援しています。
アルガンツリーを守ることは地球の砂漠化を防ぐと共に、
女性の社会進出と雇用創出の大きな役割も担っているのです。
「あなたの大切なものはなんですか?」

「わたしの大切なものは花のある平和なモロッコです。」

最後に、サハラ砂漠と関連して、モロッコにとって
大きな問題となっているのは西サハラ問題です。
スペイン統治後の1975年、西サハラと国境を接するモロッコとモーリタニアが
西サハラの分割統治を始めた所、それに対抗して独立を目指す
「ポリサリオ戦線」がサハラ・アラブ民主共和国の樹立を宣言しました。

それを引き金に、モーリタニアは領有権を放棄しましたが
それを機会にモロッコは西サハラ全域を占領し、
モロッコとポリサリオ戦線の対立は激化。激しい闘争が行われました。
1988年に国連の仲介で、独立かモロッコに帰属か
住民投票で決するという和平案でモロッコとポリサリオ戦線は
停戦に合意したものの、未だに住民投票は行われず、
膠着状態が続いており、この問題は未解決のままです。

また、西サハラには「砂の壁」と呼ばれる2000キロにも及ぶ
モロッコ軍がサハラ砂漠の砂を高さ数メートルに積み上げて作った
西サハラ領域内を南北に貫く軍事的な境界線があります。
この周辺は鉄条網と多くの地雷で防御されており
これらによって負傷・死亡する人々が絶えません。
この問題が解決し、西サハラの人々に一刻も早く
平和が訪れることを筆者は願います。

このように、貧困問題や地域格差、男女格差、西サハラ問題など
まだ多くの問題を抱えているモロッコですが、
それらの問題は他国の協力を得て、少しずつ解決に向かっています。
そしてそれは、経済発展にも繋がっているのです。
モロッコがこれから、独自でアフリカ諸国を支援するような
自立した国になればいいなと筆者は思います。
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絵と写真を集めた人:
森 やよい(2007年)
画像データを編集し、文章を書いた人:
渡部 加奈
編集完了日:
2012年1月30日
監修・校正:
山本敏晴
企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/
上記に掲載された写真のうち、
人物が写っていない写真の一部は、
以下のサイトから提供されたものもあります。
トリップアドバイザー
http://www.tripadvisor.jp/
また、上記に掲載された地図は
以下の無料画像サイトから提供されました。
白地図専門店
http://www.freemap.jp/