2011年10月21日

グリーンランド Greenland



グリーンランドは、
北極近く、北米大陸の北東に位置する、
世界で一番北にあり、世界で一番大きな島です。

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この島はデンマークの領土ですが、
現在はグリーンランド自治政府が自分たちで政治を行なっています。

島の大きさは日本の約6倍です。
人口は約56,000人(たとえば、東京ドームを満席にすると
約45,000人になります)であり、人口密度が世界一低い国です。

島のほとんどを氷が覆っており、
その氷は厚さ3,000mになるところもあります。
気候はとても寒く、
一年間の平均気温がマイナス1℃を下回ります。

人々はキリスト教を信仰し、
グリーンランド語とデンマーク語、2つの言葉を公用語として使っています。

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島民のほとんどが先住民族で、
地域によっては外見が日本人によく似ています。

産業を支える資源として、
魚介類やアザラシ、クジラなど海の生きものと、
石炭や亜鉛、銀、ウラン、鉄などの鉱物が豊富です。

オーロラを観ることができる地域として世界的に有名で、
澄んだ夜空の日には、幻想的な光景が広がります。

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上の絵は、この島の子どもが描いたオーロラの絵です。
このように赤色や緑色をおびた鮮やかな光が大空にあらわれます。
夏の季節になると、夜でも太陽が輝く百夜が続きます。

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この絵には、グリーンランドには「ない」ものが描かれています。
それは、車、樹木、農業をいとなむ風景です。

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グリーンランドでは、内陸部の大部分が氷であるために、
人間の生活できる場所が海に近い沿岸部と限られています。
町と町は何百キロと離れており、そのあいだには道路がありません。
他の町へ移動するためには、ヘリコプターや飛行機が必要なのです。



・・・

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上の絵は、この島の子どもが描いた、
グリーンランドの地図です。
上(北側)は北極海、下(南側)は北大西洋で、
さらに南には北米大陸があります。
図のように、島の内側白色の部分がすべて氷です。
人々はそのまわり緑色の部分にだけ住むことができます。

グリーンランドの地では、
もともと4000年以上昔から人々が生活をしていました。

10世紀には、北欧のバイキングらが、この地に入り、
グリーンランドと名付けました。
当時、地球は「中世の温暖期」を迎えており、
グリーンランドは、まさに緑の大地で、
現在のような氷に閉ざされていた世界ではなかったからです。
そして人々は、開拓をはじめました。

15世紀、グリーンランドで生活するのは先住民だけとなりましたが、
その後、16世紀にもう一度発見され植民地化がすすめられました。

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こちらの絵は、この島の子どもが描いた、
グリーンランドの旗と都市の紋章です。

真ん中にあるのが、グリーンランドの旗です。
この旗は氷の地から朝日が昇る様子をあらわしています。
周りにあるのが、各都市の紋章です。
グリーンランドの都市は20ほどありますが、
この子どもは右上から時計回りに、
ナルサーク、イルリサット、カコトック、ウマナック
という都市の紋章を描きました。

1917年、デンマークがグリーンランドを自分の国における領土としましたが、
1979年にグリーンランドは自分たちで政治を行いはじめました。
現在、独立を目指して歩みつづけています。



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「あなたの大切なものは何ですか?」

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「お父さん、お母さんと一緒に暮らすことです。」

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絵を描いたのは、12歳の女の子ドゥパイナッです。
この絵は上と下でわかれており、彼女の大切なものを、
何かが二つに引き裂いてしまったことをあらわしています。

絵の上部に描かれているのは、彼女のお母さんです。
お母さんは、家の台所で料理をしています。
一方、下の部分に描かれているのは、彼女のお父さんです。
お父さんは、海でアザラシを捕まえようとしています。

ドゥパイナッの家庭では、
お父さんがグリーンランドの首都に行き、両親が離婚しました。
彼女のお母さんは看護師ですが、体調を崩してしまいました。

ドゥパイナッはとても傷ついています。
「お父さんに帰ってきてほしい。
前のように、家族みんなで一緒に暮らしたい」
という、彼女の願いがあります。


「あなたの大切なものは何ですか?」

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「教会へ行くことです。」

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この絵を描いたのは、9歳の男の子アグッチです。
アグッチは幼い時に兄弟を亡くしました。
彼の両親は、二人ともアルコール中毒にかかり育児ができなくなりました。

両親が子どもを育てる力を失ってしまったことで、
アグッチは一時的に児童施設へ預けられました。
彼は多動性障がいを患い、集中力が欠けたり、
そわそわして落ち着きがなくなりました。

そんなアグッチが描いたのは、教会でした。
彼は、現在お母さんと一緒に教会に行くことができます。
「教会はお母さんと僕をつなぐ大切なものです。」とアグッチはいいました。

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グリーンランドでは、
近代化を進める中でさまざまな弊害がおきています。
アルコール中毒が問題となっています。

この島の人々は、これまで自給自足の生活をしてきましたが、
近代化により、お金を使って生活をする貨幣経済が入ってきました。

グリーンランドの文化には、
もともとアルコールを飲む習慣がありませんでした。
しかし、20世紀におきた第二次世界大戦の後、
外国からの資本主義経済が、アルコールとともにやってくると、
状況は大きく変わりました。

今までなかった貨幣経済により、収入がひとまとめに入ると、
人々はそのお金をおいしいお酒につぎ込んでしまいます。
この結果、多くの人がアルコール中毒に陥ってしまいました。
同時に、自殺者や家族へ暴力をふるう人などが増えて、
グリーンランド全体での大きな問題となりました。

グリーンランドには、「子どもたちの家」という施設があります。
「子どもたちの家」は島に8ヵ所ほどあり、
アルコール中毒や育児放棄、虐待、家族や親戚の自殺などによって、
心と身体に傷を受けた子どもたちを受け入れています。

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辛い時期を乗りこえて、
アグッチは家族との生活に戻ることができました。

子どもたちに
「笑顔が一つでも戻ってほしい」と、
「子どもたちの家」は一人ひとりを支えています。



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「あなたの大切なものは何ですか?」

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「犬ぞりです。」

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グリーンランドでは、人々は移動するときに犬ぞりを使います。
人から人へ、島民は犬ぞりの文化を受け継いできました。

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この島では、先住民族が伝統を守ってきました。
生きるために必要な心のもちかた、厳しい環境の中で生活する技術、
人間として大切なものを親は子に教えてきました。
壮大な自然の恵みと周りにいる人々が、
子どもたちにとっての学校であり先生でした。

近代化が進むなかで、
教育の分野も課題に直面しています。
NPOエコプラスによれば、

グリーンランドでは、
伝統的な民族に対する学校での教育において、
多くの問題が生じています。

それは、世界の中で経済・政治的に力がある一部の国が、
文化や価値観がちがう他の民族に対して、
自分たちの教育方法をそのまま当てはめてしまっていることです。

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(この写真は、ウマナックという町にある学校を空から撮影したものです。)

教育を行う側の人々が十分に整っていないようです。

グリーンランドでは島にいる先生が足りないため、
他の国から応援の先生たちが来てくれるのですが、
すべての教員がグリーンランド語を話せるわけではないので、
生徒が授業内容を理解できないことがあります。

一方、自治政府の予算が理由で他の国からの先生がいない村では、
高い教育を受けられる高校や大学に入学するための授業が不足しています。
その代わりに、地元の漁師が実習などすばらしい授業を行っています。

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エコプラスは次のように述べています。
「どちらか一方を選ぶのではなく、子どもたちにおける、
多くの様々な可能性を育てるにはどうしたら良いのでしょうか」



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「あなたの大切なものは何ですか?」

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「人々を救う、愛です。」

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グリーンランドでは、
人々の暮らしを支える福祉の仕組みが充実しており、
島民は無料で医療を受けることができます。

しかし、
その医療を行う医師や看護師が足りません。

それぞれの町に病院は1つあればよいほうで、
病院がない村もあります。
あったとしても、そこに診察や治療をする人は十分にいません。
このため、現在は他の国から医師や看護師が
グリーンランドに行って治療を手伝っています。

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グリーンランド自治政府は1994年に、
自分たちの地域で医療にたずさわる人を育てる専門機関をつくりました。
この機関は、これまでに70人の看護師を世に送り出しました。
50人の生徒が今も学んでいます。

「20年後には、外国からの助けにたよらず、
自分たちの命は自分たちで救いたい。」ということを目標に、
指導者たちは未来の看護師をみちびいています。



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「あなたの大切なものは何ですか?」

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「グリーンランドの氷河です。」

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世界では、地球温暖化が問題になっています。
その被害を最も受ける地域の一つが、グリーンランドです。

世界気象機関(WMO)によりますと、
2010年における地球の平均気温は、
2005年、1998年と並び、
調査をはじめて以来の最高温度となりました。

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平均気温が上がることは、1度でも地球の環境を変えてしまいます。
気温上昇は以下のような影響を及ぼします。

1度:サンゴ礁が白くなり、北極の海水や一部の氷河がとける。
2度:水不足がおこる。農業生産力が低くなる。
3度:一年中凍っている永久凍土が速いスピードでとける。
   地球の温度を上げるガスが、発生し、
   地球温暖化に拍車がかかり、悪循環が始まる。

グリーンランドの気温上昇は特に激しく、3度以上あがりました。

国連教育科学文化機関(UNESCO)は、
2004年にグリーンランドのイルリサット氷河を、
世界遺産に登録しました。

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地球温暖化はこれからも進んでいく恐れがあるとして、
世界は気温の上昇を止めるために動いています。

2005年8月、グリーンランド自治政府はデンマーク政府と協力して、
イルリサットの町で気候変動に関する会議を開きました。
世界の大臣たちは2009年まで、
この会議を毎年さまざまな国でもうけました。

この話し合いには、国際条約である「気候変動枠組条約」の事務局をはじめ、
世界中から数十の国や地域が参加しました。

この会議では、
主に以下の点について、大臣たちが具体的な相談をしました。

1.地球を温める「温室効果ガス」を減らす活動に関して、
  各国共通の点と、それぞれの国や地域に応じて変えるべき点について。
2.途上国が行う温室効果ガスの削減と先進国が行う支援について
3.一連の行動に使う資金と技術における支援が必要とする、制度と管理について


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「あなたの大切なものは何ですか?」

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「魚です。」

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この絵を描いたのは、ルーチビングワック、9歳の男の子です。
上の絵は、「カラハリ」という魚です。
グリーンランドの人々は、昔からこの魚を大切にしていました。

カラハリを売ることにより、
人々は生活するために必要なお金を得ることができます。

日本もこの魚をたくさん輸入しており、
寿司のネタなどに使っています。

また、グリーンランドでは犬ぞりを使うために
犬を何匹も飼っている家が多いのですが、
飼い主はカラハリの頭の部分を漁師から無料でもらうことができました。
(現在は、頭も日本や他の国が買ってしまうので、もらうことはできません。)

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グリーンランドの経済を支えてきた漁業ですが、
これが近年、危機的な状況にあります。

理由は、
1.地球温暖化により氷がうすくなったため、
  犬ぞりに乗って氷の上で行う漁が危険になり、昔ほど漁ができなくなったこと。
2.近代化により、伝統的な漁で生活をたてていくことが難しくなったこと。
3.絶滅のおそれがあるクジラを獲ることが制限されたこと。
などがあげられます。

グリーンランドの総生産(GDP)はとても低い状況です。
アメリカ中央情報局の報告によると、
世界の国と地域は200ほどある中、グリーンランドの順位は177位です。
グリーンランドが漁業だけで自分たちの生活を支えることは難しく、
別の方法で経済力を上げる必要がでてきました。

1990年代、グリーンランドをおおう氷の下に、
原油がたくさん埋まっていることがわかりました。
これを利用して、自治政府は島の経済力を高めようとしています。

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グリーンランドの自治政府が経営する石油会社Nunaoilは、
日本や諸外国とともに、この事業に協力しています。

このプロジェクトは、国際的な共同調査です。
専門家たちは海の奥深くにある地質を調べて、
原油を掘りだすのにちょうどよい場所を探しています。

埋まっている原油の量は約500兆円になると、石油会社は伝えています。
人々はグリーンランドのことを今や「氷島」ではなく、
「宝島」とよんでいるのです。

人間がグリーンランドの原油をさらに掘り出しやすくするために必要なこと、
それは、実は地球温暖化が進んでグリーンランドの氷が解けることです。
地球温暖化が進むと地球にいる多くの生物は苦しみます。
一方で、人間がほしい資源は採掘しやすくなります。

世界にはたくさんの矛盾と葛藤があります。

これから先の地球温暖化がもたらす良いことと悪いことを客観的に判断し、
人間だけでなく地球全体が守られるような選択を人類がしていかれたらよいと、
筆者は願います。



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「あなたの大切なものは何ですか?」

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「愛と祈り、希望、そして世界中の誰もが幸せになることです。」

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この絵の作者である女の子のイヴァルは、
ハート、十字架、碇(いかり)、
さまざまな肌や髪の色をした人々を描きました。

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イヴァルの部屋は、天井にも、ベッドにも、彼女の腕のなかにも、
ハートが溢れています。

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ハートは愛、
十字架は信仰、
碇は希望をあらわします。

3つとも、キリスト教における重要な象徴ですが、
実は、グリーンランドにこれらが存在します。

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正面にある大きな山が、「ハート」をあらわしています。
二つの山が根元で一つにつながっている形は、
ハートの上部分のようですね。

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上の写真、右側にあるのが教会です。
時計がついている建物の上に、「十字架」があります。

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そして、教会の前にあるのが、「碇」の記念碑です。
人々はこれを「希望の碇」と呼んでいます。

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この写真にはハート、十字架、碇のすべてがどこかにあります。
3つとも見つけることができれば、今日も明日も、
いいことがあるかもしれません。

愛をもって祈り、希望をもち続ける。
グリーンランドの人々は、島と一体になって、
強く優しく生きていると筆者は思います。





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絵と写真を集めた人:
宮下 典子

画像データを編集し、文章を書いた人:
渡部香織

編集完了日:
2011年11月1日

監修・校正:
山本敏晴

企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/

posted by お絵描きイベント at 09:05| 日記