2011年09月24日

カメルーン Cameroon

私の大切なものは『サッカー』です。

サッカー無しでは、夢は見られません。」

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カメルーンと聞いて
先ずサッカーを思い浮かべる人が
多いのではないでしょうか。

FIFAワールドカップ日韓開催では、
「いちばん小さな自治体をキャンプ地にした国」として
大分県中津江村と共に
多くの日本人に記憶されました。


カメルーンは、アフリカ大陸の中でも
特にサッカーが盛んです。

アフリカネーションズカップにて
これまでに4度の優勝を経験しています。

近年では、FIFAワールドカップでも
すっかりおなじみの国になりました。

これらの大会はヨーロッパのクラブチームにとって
絶好の選手発掘の場となっています。

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そして、カメルーンのサッカー少年にとっても
ヨーロッパのクラブチームにスカウトされることが
夢への近道なのです。

「ヨーロッパのサッカーチームで活躍して
使いきれないほどのお金を稼ぐんだ!」

そんな夢を見る少年とその家族は
一縷の望みを、渡航費や滞在費と共に
新人選手を紹介するエージェントに託します。

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しかし、家族が用意したお金を詐取したり、
書類の偽造をしたりする悪徳業者が少なくありません。

うまくヨーロッパに渡れたとしても
成功するのは何万分の一です。

チームとの契約も就職も出来ず
ホームレスとなり麻薬に溺れる少年が後を絶ちません。

この状況を重く見た、カメルーン出身のサッカー選手
ジャンクロード・ムブミン氏は
NGO団体 Foot Solidaire(フット・ソリデール)を立ち上げ
フランスに来たサッカー少年の相談や保護を行っています。

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また、日本の青年海外協力隊は
サッカーなどのスポーツを通して
協調性やチームワークを育てる教育を
小学校などで実施しています。

2010年にはサッカー日本代表の北澤豪選手が
国際協力機構(JICA)オフィシャルサポーターとして
カメルーンの小学校を訪れています。

「自分がボールを持っていないときでも
チーム全体の動きを把握して、
チームが勝利するために自分に何ができるか常に考え
みんなで協力してほしい」

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サッカーによって得られるのは
お金だけではないのです。





「私の大切なものは『自然』です

家畜が生かされ、また私たちが生きていくために
自然の恵みが不可欠です。」

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「カメルーンはアフリカのミニチュアである」と
表現されることがあります。

そう呼ばれる理由の一つに、
多様性に富む自然があることが挙げられます。

南部は熱帯雨林
西部は渓谷と火山
中部は高原
北部はサバンナあるいは砂漠地帯
という具合にです。

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また、カメルーンはその雄大な自然と共に
約500種の絶滅危惧種を保有しています。


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なかでも、首都ヤウンデの東から南に延びる
ジャー動物保護区は世界遺産になっており、
絶滅危惧種も多く生息しています。
人間では、バカ族のみ居住を許されています。


「私の大切なものは『家畜』です。

でも、長い乾季のせいで
私の家の家畜が全て死んでしまいました。」

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地球温暖化は、カメルーンの自然と動物と
それによって生かされている人間の
生命を脅かしています。

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2008年頃から続く干ばつによって
5歳以下の子どもや、妊婦・授乳中の女性
およそ 12万 4000人が
急性栄養失調に苦しんでいます。

この干ばつによって世界規模で
食糧価格が高騰しました。
カメルーンでは暴動に発展し
死傷者が出ました。

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これに対し、カメルーン政府は
輸入食品の一部に減税の措置をとりました。
また食糧生産倍増を目標とする
2年計画を発表しました。

またカメルーン政府からの要請を受けたWFPは
ユニセフなどと協力しながら
食糧不足と栄養不良の打撃を受けた地域への
支援を行いました。


地球温暖化について科学者のあいだでも
日々様々に議論されており
真偽はまだはっきりしていません。

しかし、ここカメルーンにおいて
自然の楽園が急速に失われていることは
疑いのない事実なのです。

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「私の大切なものは『経済力』です

私の家では、テレビを買えたおかげで
最新のニュースや娯楽が手に入ります。」

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「アンゴラには原油が、
マリには綿花が、
コートジボワールにはカカオがある。

…そしてカメルーンにはそれら全てがある。」

と、世界的経済誌に言わせるほど、
カメルーンの経済は潤沢です。

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大陸に在って海に開かれた国であること
また資源が豊富であることに加え、

政治的安定や、整備された法や制度が
カメルーンの経済成長をますます期待させます。

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日本語でこれを読んでいる皆様は
カメルーンのことは知らなくても
地理も文化も近いベトナムのことなら
知っているという方も多いのではないでしょうか。

ご存知の通り、VISTAの一つとして
『有望新興国』と考えられています(→※1)。


実は、カメルーンの教育と経済は
このベトナムとほぼ同水準なのです。


2008年までに成人した人が教育を受けた年数は、
ベトナムが5.5年
カメルーンは5.9年です。

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国民一人当たりの平均所得(GNI/人口)は
ほぼ同じです(→※2)。

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しかし国連開発計画(UNDP)による
人間開発指数の総合ランクでは
ベトナムが113位なのに対し
カメルーンが131位と
大きく引き離されています。


カメルーンがベトナムに
大差を付けられているものは何でしょうか。

それは、医療です。


ベトナムの平均寿命が75歳なのに対し、
カメルーンは51歳です。

また5歳になる前に死亡する子どもは、
ベトナムでは1000人に14人
カメルーンでは1000人に131人
の割合でいることが分かっています。

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なぜ、カメルーンの医療水準は
経済や教育と共に伸びなかったのでしょうか。


理由の一つに、カメルーンでは現在でも
民間伝承による医療が
重んじられていることが挙げられます。


彼らは下痢を薬草と祈りで治そうとします。

もちろん、それらが精神的な効果として
有効なこともあります。
しかし近年被害が拡大しているコレラやエイズには
少なくとも効果が無いようです。

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2010年にはカメルーン北部で
コレラが流行しました。
コレラは、きれいな水と抗生物質を用いれば、
死亡率を1%以下に抑えられる病気です。

しかし、カメルーンのコレラによる死亡率は
7%以上といわれています。

北部の農村部では
適切な情報や医療機関へアクセスできないため
手近な民間医療に頼らざるを
得なくなっていると考えられます。

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この問題に対してユニセフは、
地元の携帯電話会社や小学校などと協力して
衛生に関する意識の啓発を行っています。

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次に、避妊普及率を数字で見てみましょう。

経済力と教育水準がカメルーンと同程度のベトナムでは
避妊普及率が79%です。

それに対して、カメルーンの避妊普及率は29%です。

低い避妊普及率と手薄い医療では
HIVの予防や感染者へのケアが
充分にできません


そこで、ソニー株式会社、UNDP、JICAは
2010 FIFA ワールドカップの際に
パブリックビューイングを
カメルーンとガーナで実施しました(→※3)。

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カメルーンはサッカーが盛んなことは
先に述べたとおりです。

その一方で、テレビの普及率は20%と
決して高くはなく、ほとんどの人は
自国の試合を応援できません。

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そこでまず、ソニーによって
太陽光などで発電した電気を使って
サッカー中継が上映されました。

集まった人々は一丸となって
自国の選手を応援しました。

そして、ハーフタイムには
UNDP、JICAのスタッフが
HIV検査や感染者のカウンセリングを行いました。

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このプロジェクトによって
2カ国合わせて、約5、000人に対して
HIV蔓延対策を行うことが出来ました。


カメルーンにおいてサッカーは
協調性と健康

そして感動を人に与えているのです。

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ちなみに、UNDPによる人間開発指数の総合ランクで
11位を誇る日本の避妊普及率は
59%と、軒並み低い数値です。

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日本は先進国の中で唯一、
HIV感染者が増加している国と言われています。

この点について我々は
改善していかなければならないでしょう





「私の大切なものは『伝統』です。

両親やおじいさん、おばあさんは
学校でも教えてくれないことを
私たちに教えてくれます。」

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コレラやHIVウイルスに対して
現代医療が民間伝承より効果的であることは
先に述べました。

しかし、ここで気をつけなくてはならないのが
性や生命の考え方に対して
どの価値観が正しいということはないということです。

そこで、現代医療をカメルーンにもたらすことが
先進国の価値観を押し付けるのではなく、
カメルーンの国民に選択肢を増やす機会となるべきなのです。


例えば、性の問題において
様々な解釈が存在します。

避妊が身近な人にとって
避妊具を用いない性交渉は
『不潔』そのものでしょう。

一方で、避妊具になじみのない人にとって
ゴムを隔てた愛で満足する人は
『哀れみと軽蔑の対象』なのでしょう。

どちらの解釈も間違いではないのです。

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大事なことは、考えうるリスクをてんびんにかけて
よりリスクの低い行動を選択することです。


先の例の場合
「HIVに感染するかもしれない」という
リスクを取るか

または「愛を体現する」という
リターンをとるか、という選択肢があり
どちらを選ぶかは個人の自由なのです。

現代医療を、新しい選択肢の一つとして
紹介するという姿勢が
多用な文化と健康的な生活の共存を
実現する国際協力なのではないでしょうか。

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民間伝承と最先端医療の共存は
難しいことではありません。

実際に、我々日本人は2つを
共存させています。

例えば、Jリーグのチームはシーズン前に
地元の神社で必勝祈願を行います。

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そして、試合で怪我をしたら
最先端の医療を利用します。


信仰と現代医療を、状況に応じて
合理的に選択することで、
日本のサッカー選手は思い切りプレーが出来るのです。

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「文化の保守か最先端技術の導入か」という問題は
医療に限りません。
国際協力をすれば必ず直面する問題です。

でも、多様性を受け入れれば
解けない問題ではないのです。

教育や経済は
着実に成長させてきたカメルーンです。

医療の向上と文化の保存にどう取り組むのか
これからも見守っていきましょう。


「私の大切な物は『カメルーン』です。

ここに私たちがいます。」

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注釈



※1

VISTAとは、ベトナム、インドネシア
南アフリカ、トルコ、アルゼンチン
の5カ国をのことです。


※2

GNIについて厳密に言えば
計算の仕方により数値が異なります。

それぞれの通過で、買える財やサービスの量を
等しくして換算した平均所得
(PPP方式によるGNI)によると

ベトナム: 約 3,000 米ドル
カメルーン: 約 2,200 米ドル


一方、市場為替レートで換算した平均所得
(アトラス方式GNI)では

ベトナム: 約 1,000 米ドル
カメルーン: 約 1,200 米ドル

となります。


しかし、順位のみを比較すると
2つの国に大きな開きはありません

そこで、ベトナムを
経済力がカメルーンと同程度の国
とみなして比較対象としました。

なお、PPP方式によるGNIのほうが
商品やサービスの価格を考慮しており
国民の生活水準を比較するのに適当だと言われています

UNDPの人間開発指数ランクでは
PPP方式によるGNIが
経済力を示す指標として用いられています。



※3

パブリックビューイングとは
スポーツなどを大型ディスプレイで
大勢が鑑賞することです。





・・・
・・・


絵と写真を集めた人:
木下 晶子、山本 敏晴

画像データを編集し、文章を書いた人:
小野 明日美

編集完了日:
2011年10月1日

監修・校正:
山本敏晴

企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/

人物が写っていない画像は、
以下のフリー素材会社から提供を受けたものもあります。
(株)データクラフト「素材辞典」
http://www.sozaijiten.com/

posted by お絵描きイベント at 17:41| 日記