2011年09月13日

チュニジア Tunisia


チュニジア共和国は、
アフリカ大陸で最も北に位置する国です。
北には地中海、南にはサハラ砂漠が広がります。

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国の大きさは日本の半分より少し小さいくらいで、
人口は約1000万人、日本の10分の1です。

『アフリカ』という名の由来はチュニジアにあるといわれています。

3000年の歴史をもち、
イスラム文化と地中海文化の交わったこの国は、
世界遺産などの観光業や、
小麦、オリーブ、なつめやしなどの
農業によって栄えています。

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国民のほとんどがアラブ人です。

国が定めた宗教はイスラム教ですが、
決まりはゆるやかです。

多くのイスラム教国家にみられる一夫多妻制は禁止され、
服装に関しても寛容です。

チュニジアの教育レベルは高く、
女性の社会進出が進んでいます。

1年間の収入は、
アフリカ大陸における平均額の3倍近くあります。

多くの分野において水準が高く、
『アフリカの優等生』と呼ばれています。


そのチュニジアが今、激動の中にいます。
どのようなことが起こっているのでしょうか。



・・・


フェニキア人が移住したこの土地は、
紀元前9世紀に、都市国家のカルタゴ国がつくられ、
地中海貿易によって栄えました。

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カルタゴの遺跡は現在、世界遺産に登録されています。

紀元前2世紀に古代ローマの支配により、
キリスト教が伝わりましたが、
7世紀にはアラブ人によりイスラム教国家に変わりました。

16世紀に多民族国家であるオスマン帝国の領土となりました。

オスマン帝国の国旗
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(ウィキペディア フリー百科事典より)

(オスマン帝国の国旗が、現在あるチュニジア国旗の元です)

チュニジアの国旗
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(外務省ホームページより)



19世紀、
ヨーロッパで、アフリカを植民地にしたい国々が
会議を行いました。
これを「ベルリン会議(欧州によるアフリカ分割会議)」といいます。

この時に
チュニジアを支配する権利を得たフランスの統治が続いた後、
1956年に独立しました。

翌年には王が行う統治から大統領制へと移行し、
チュニジア共和国が誕生しました。

ブルギーバ大統領は建国当初、社会主義政策を行いましたが、
その後、自由主義政策へと改めました。

1987年にベン・アリ大統領が就任し、
20年以上に及ぶ長期政権が行われました。




・・・

「あなたの大切なものは何ですか?」

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「しっかりと勉強をすることです。」

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一般には、アフリカでは、
石油、石炭、天然ガスをはじめ、
様々な資源が豊富に存在する大陸として、世界の注目を集めています。

ところが、
チュニジアは、国土が狭く、
石油などの資源が、あまりとれません。

そのチュニジアにおいて、人々が頼っていたのが、
『リン鉱石』を採掘できることでした。

リン鉱石は鉱物の一種で、
リン酸肥料をつくることができます。

リン酸肥料は、
農業における肥料の中で三大要素に含まれています。

(現在、世界では人口が急増しており、
 農業生産を増やすことが必須とされています。
 そのためには、リン酸肥料をはじめとする化学肥料を、
 今後も安定して生産していくことが必要なのです。)

ところが、
原料となるリン鉱石が、限られた国でしか採れません。

チュニジアは、そうした貴重なリン鉱石が採れる
数少ない国であったため、、
リン鉱石産業はチュニジアの発展に役立ってきました。

しかし、
最近、チュニジアのリン鉱石は枯渇してかかっており、
このため、経済発展が難しくなってきています。


物質としての資源で他の国と競うことが難しいため、
国家を成長させるためには、
チュニジア独自の良いところを見つけて、
それを伸ばす必要がありました。


そこで政府は、『教育』によって人を育て
人材としての資源に力を入れることにしました。

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1989年に教育改革を行い、
多くの子どもが無償で教育を受けられる環境を整えました。

国の予算の20%を教育分野に割き(日本の教育予算は7%です)、

6歳〜16歳の子どもは男女問わず、
無料で義務教育を受けることができるようになりました。

小学校の就学率は95%以上といわれています。

さらに、試験に合格すれば大学の教育も
無償で受けることができます。

この結果、チュニジアの教育水準は
アラブ諸国の中で最高レベルに達しました。


これにより、女性の社会進出も非常に進んでいます。

大学生の半数以上、小中学校や大学の教育者はほぼ半数、
医師や弁護士は30%を越え、議員も約20%が女性です。

一般に、男性が優位となっているイスラム教国家の中で、
男女を等しく重んじようとするチュニジアの姿は、
今までにない新しい時代を感じさせます。



・・・

「あなたの大切なものは何ですか?」

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「家族と一緒に、おいしい食事をとることです。」

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チュニジアでは、近年食料の値段が急激に上がっています。
穀物、肉、野菜、水、さまざまな品目が値上がりしています。
2倍の価格になってしまったものもあります。


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食料価格の高騰は、世界的に深刻な問題です。

2008年ごろから
価格が急激に上がりはじめました。

高騰の理由は、主に以下のことが挙げられます。

1.地球の気候変動により、降水量が減ったこと

2.世界全体における人口増加と、各国単位での人口増加により、
  食料の消費量が増えたこと

3.原油価格の上昇により、食料の輸送費用が上がったこと

4.石油などの化石燃料が枯渇(または価格高騰)してしまうため、
  トウモロコシ、サトウキビなどの穀物から(代わりとなる)
  『バイオ燃料』を作ろうとする動きが世界に広がっており、
  そのための農地を(投資家が世界中で)買占める動きがあること。

5.投資家が投機マネーによって利益を得るため、
  穀物の売買を繰り返したこと
  (投機マネーとは、投資家が資金を短期間に増やすために、
  取引の市場で売り買いされる数字上の金銭のことです)

6.世界で勢いのある経済成長をしている、新興5カ国(BRICS)の
  ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカにおいて、
  富裕層の人口が数倍に増えたため、牛肉の需要が高まったこと。
  (一般に、生活が豊かになると、
   人間は穀物食から肉食に変わる傾向があります。
   穀物をそのまま食べる場合に比べて、
   牛に穀物を食べさせ、牛肉にしてから、それを人間が食べる場合、
   5〜20倍の穀物の量が必要とされています。)

 こうした、さまざまな背景によって、
 世界中で穀物が不足し、その価格が高騰しているのです。

 この穀物価格の上昇は、次に述べるような
 深刻な問題を世界中で起こしています。
   



・・・

「あなたの大切なものは何ですか?」

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「平和な世界です。
どの国の人も、幸せを感じられる世界になってほしいです。」

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チュニジアでは、2010年12月に『ジャスミン革命』が起き、
政権が崩壊しました。

(ジャスミンがチュニジアを象徴する花であることから
この名がつきました)

その原因は、以下です。

1.食料価格の高騰。一般の主婦などに政府に対する不満が蓄積。
2.高い失業率。急速な人口増加により若い世代の失業率が30%以上。
3.政権を担う側が利権を独占してきたこと。
4.それに対する国民の不安を政府がおさえきれなくなったこと。
  (軍が、政府を見捨てたため)

以上の結果、
市民の不満が爆発し、チュニジアの政府は崩壊しました。

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これまで、
23年間もの間、市民を弾圧してきた
ベン・アリ政権ですが、
今回の民主化を求める運動を受けて、
政権は崩壊しました。

『ジャスミン革命』をきっかけにして、
反政府組織によるデモが、
北アフリカから中東にかけての「アラブ世界」をはじめ、
それ以外の各国でも起こりました。

(アラブ世界では、これまで、
 ほとんど全ての国が、
 王族または軍出身者による『独裁』であることが
 一般的でした。
 ところが、その『常識』が変わろうとする動きが起こりました。)

この革命の嵐は『アラブの春』(または、中東の春)と呼ばれました。

チュニジアに続き、
エジプト、リビアでは、政権が崩壊しました。

さらに、
シリア、イエメンでも大きな市民運動が起こっており、
体制が崩壊する可能性があります。

そのほか、
バーレーン、アルジェリア、ヨルダン、サウジアラビア、中国でも
小規模な反政府デモが起こっています。

スーダン、ソマリアでは、
もともとあった内戦が、影響を受けて激化しています。


この世界的課題をうけて、
先進国と新興国が集まる『主要20ヶ国・地域(G20)』は
会議をもうけました。

G20には、
国際通貨基金(IMF)、世界銀行、
世界貿易機関(WTO)、国連食糧農業機関(FAO)
などの国際機関も協力しています。

このG20では、
世界中での反政府デモ活動の拡大を防ぐために、
1.食糧価格の高騰を抑え、
2.食糧の流通量を確保し、
3.農業生産を増大させていく、
ということで合意しました。


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「あなたの大切なものは何ですか?」

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「健康な身体です。」
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チュニジアの医療は進んでいるといわれています。

しかし、専門的な技術や手術が必要な患者に対しては、
未だ治療が行き届いていません。

医療を受けたくても受けられない患者がいます。


NPO法人日本口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)協会は、
患者の手術を無償で行なっています。

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口唇口蓋裂とは、
生まれつきの病気で、先天性障がいの一つです。

上唇や上顎に大きな裂け目が生じ、
重度の症状では、唇から鼻の穴まで一直線に裂けます。

チュニジアでは専門の医師が足りず、
多くの患者が治療を受けられませんでした。

命に関わる病気ではありませんが、
それゆえに、緊急を要する他の病気治療の方が優先されてしまうようです。

言語障害、歯列不正、耳の疾患などが生じやすく、
手術をしないまま成長すると、
根拠のない差別を受けてしまうこともあります。

この状況を知った協会は、毎年チュニジアへ向かい、
現地で10日間の診察や無料の手術、技術指導を行なっています。

これまでに300人を越える人々が手術を受けました。

10年以上にわたり協会が続けるこの活動は、
チュニジア国民から大変喜ばれました。

現在では、チュニジア国内に限らず近隣諸国からも
治療を求めて患者が集まっています。



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「あなたの大切なものは何ですか?」

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「雨です。雨が降れば、砂漠化も防ぐことができると思います。」

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チュニジアの南部には、世界最大の砂漠である
サハラ砂漠が存在します。

16世紀までは、国どうしの交わりや取引のために栄えましたが、
砂漠の規模が次第に大きくなり、森林や草原が砂漠へと変化し、
土地をのみ込む砂漠化が進んでいます。

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チュニジアと日本における政府と企業は、
この砂漠を利用して、産業を興す取り組みをはじめました。

三井造船株式会社と大成建設株式会社は、
新エネルギー・産業技術総合開発機構から依頼を受け、
砂漠地域に照りつける太陽熱を利用し、
『太陽熱発電』計画を始めました。

太陽光をパネル上で電気に変える『太陽光発電』とは異なり、
鏡により集めた太陽熱を原動力とした、
蒸気の力も用いる発電法です。

少ないエネルギーで高い発電力があり、
熱を貯めることで24時間の発電が可能です。

また、燃料が太陽熱であるため、
燃料費や導入費を含めて発電費用を減らすことができ、
二酸化炭素を出さずにすみます。

・・・

チュニジア政府は、
二酸化炭素を出さないクリーンな電力を
ヨーロッパに送りたいという願いがあります。

日本政府は、
日本では実現できなかった
『太陽熱発電』で事業を起こしたいという願いがあります。


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両国は、
世界のエネルギー問題に貢献したいという
共通の想いがあるのです。





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・・・


絵と写真を集めた人:
後山阿南

画像データを編集し、文章を書いた人:
渡部香織

編集完了日:
2011年9月23日

監修・校正:
山本敏晴

企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/

人物が写っていない画像は、
以下のフリー素材会社から提供を受けたものもあります。
(株)データクラフト「素材辞典」
http://www.sozaijiten.com/

posted by お絵描きイベント at 17:22| 日記