
約13億人の人が住み、面積が日本の25倍と大きな国。
そして現在急激な経済成長をしている中国。
中国の正式名所は中華人民共和国。首都は北京です。
中国は90%以上を占める漢民族と、50以上の少数民族からなっています。
昔、清という王国があったのですが、
1912年に、革命家の孫文が、資本主義の国、
「中華民国」を建国しました。
その後、1949年に毛沢東が、共産主義の国、
「中華人民共和国」を建国し、
以後は中国に「2つの政府」が存在しています。
中華民国政府は台湾に移動しましたが、
現在にいたるまで中国の「2つの政府」問題は解決されていません。
一応、現在、国連に「国である」と認められているのは、
中国本土にある、中華人民共和国の方です。
・・・
「あなたの大切なものはなんですか?」
「わたしは天安門が大切だと思う。」
劉時鳳さん 36歳


天安門事件(1989年)は、北京市の天安門広場で起こった事件です。
民主化を求めて集まった一般市民のデモ隊に、
中国軍が武力で対抗し、多くの死傷者を出しました。
以後も、デモ隊に参加した学生や人権運動家の人たちは、
中国の人びとの人権を守るために、政府と闘い続けました。
中国政府は、実際の死傷者数を公表せず、
政府を批判した人びとを弾圧しました。
(この天安門事件で殺された人の数は、
数万人以上いる、とも言われています。)
また、国際人権団体の
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)は、
「中国政府は、1989年に、天安門広場で、
丸腰の一般市民を虐殺したことを認めるべきである」
という声明文を出して、中国を非難してきました。
・・・
「あなたの大切なものはなんですか?」
「わたしは自由自在に泳ぎ回る魚を描いたわ。」
袁王珍さん 47歳


現在の中国は、共産主義国家です。
一般論として、共産主義国家の良いところは、
国民がみな平等であることです。
国民の間では、貧富の差がないはずです。
また、一般に、
義務教育の普及率は、資本主義国家よりも高いことが多いです。
しかし一方で、一党独裁政権により、
国家の権力がとても強く、
言論・宗教の自由が制限されてしまうことや、
「平等」という考えから、競争原理が働かず、
生産意欲(仕事をする意欲)がわきにくいという特色もあります。
どんなに頑張って働いても、
怠けている人と同じお給料だったら、
頑張る気持ちが下がってしまいますよね。
そのような中、劉暁波(りゅうぎょうは)さんという人権運動家が、
2008年に「08憲章」という、
「自由」「人権」「平等」「共和」「民主」「憲政」
を基本理念とする主張を発表しました。
彼は、さまざまな、人権・民主化運動に参加し、
天安門事件では投獄され、現在も監獄に服役中の人です。
劉暁波さんは、その活動が称えられ、
2010年に(刑務所にいながら)
中国在住の中国人として初のノーベル平和賞を受賞しました。
劉暁波さんのノーベル平和賞受賞に猛反発した中国政府は、
各国に、その式典に出席しないよう働きかけ、19カ国が欠席しました。
”中国は人権弾圧をしている”という見方もある一方で、
”ノーベル平和賞の選考には欧米の政治的な戦略もあり、
公平な選考であるのかどうか疑問だ”
という批判の声もあげられています。
どちらが正しいのでしょうか?
・・・
「あなたの大切なものはなんですか?」
「子どもたちが山を抜け出し、貧困から抜け出すことが大切だと思いま
す。」
李嬌嬌さん 17歳


2010年に、中国はとうとう日本を抜いて、
GDP(国内総生産)が世界第2位になりました。
(1位アメリカ14.6兆ドル、2位中国5.7兆ドル、3位日本.54兆ドル)
中国のように、
最近になって経済成長が著しくなってきた国を
「新興国」と呼びます。
また、自動車生産台数は世界第2位になり、
石油消費量も世界第2位になるなど、
中国はものすごいスピードで経済成長を遂げています。
中国は政治的には共産主義体制を保ちつつも、
北京や上海などの都市部を中心に、
経済の一部を「市場経済化(資本主義化)」しています。
このため、一方で、
中国国内での所得の格差(貧富の差)は広がり、
深刻な社会問題となっています。
もはや、共産主義の良い所の、
「みな平等」は、なくなってしまいました。
沿岸部の上海などでは市場経済化が進み、
経済が活性化していますが、
内陸部では現金収入がほとんどなく、
都会に出稼ぎに行く人が増えています。
でも都会に行ったからといって、
すぐに仕事が見つけられるわけではありません。
ホームレスになる人も多いです。
一部の中国人富裕層が、
東京銀座などにマンションを購入したり、
北海道などの土地を大量に購入するというニュースを
最近よく耳にします。
人々の所得の格差は拡大する一方です。
都市部と地方での貧富の差が拡大し、
貧困層の不満が溜まっているという事態が、
現在の中国を不安定にしている要素の一つです。
そして、最近では労働者のストライキも増え、
仕事や将来に対する不安から自殺する若者も増えています。
社会主義国家が資本主義に移行する時、
自殺率が上がるという現象は、
以前、旧ソ連圏でも起こっていました。
さて、上に掲載した李さんの絵ですが、
ほとんど収入のない内陸部では、もう食べていけないので、
貧困を抜け出すためには、
都市部へ行ってお金を稼がなければならない、
という思いが、山間部の子どもたちの中にはあるのでしょうか。
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「あなたの大切なものはなんですか?」
「わたしは楽しそうにしているパンダの絵を描いたわ」
賀新新さん 20歳


中国は、絶滅危惧種の多い国です。
446種の植物(世界3位)と、370種の動物(世界9位)が、
絶滅の危機に瀕しています。
人口の増加と自然破壊による開発を繰り返したことによって、
多くの動植物が絶滅の危険にさらされています。
2010年の10月に愛知県名古屋市で開催された、
「生物多様性条約・締約国会議(COP10)」では、
多様な生き物や、その生息環境を守り、
持続可能な環境づくりのための話し合いが行われました。
しかし、動植物の保護によって
経済発展の邪魔をされたくない中国と、
自然保護地域の面積について高い目標を掲げたいEUとの間で
対立が起こりました。
結局、双方の間を取り、
中国は2020年までに、生物多様性保全地域の面積を、
中国国土の18%にするという目標に落ち着きました。
本当は、生物保全地域を、もっと広くしたかったのですが。
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「あなたの大切なものはなんですか?」
「地球が泣いているの」
王瑋さん 16歳


2010年11月に、地球温暖化対策を話し合う
「気候変動枠組み条約・締約国会議(COP16)」が
メキシコのカンクンで開催されました。
(中国を含む)新興国と途上国は、
日本と欧州などに対してだけ、以前、「京都議定書」で決定された、
CO2削減義務の延長を訴えました。
そして、自分たちには
CO2排出量の上限の設定はしないことを主張しました。
ここで大きな問題となるのが、
世界一のCO2排出国は、現在、中国であることです。
中国は、2009年にアメリカを抜いて、
CO2排出量が世界一位になってしまった
経済大国なのです。
昔、作られた京都議定書のままでは、
中国は、CO2削減義務の、対象外になっています。
ちなみに、アメリカも、京都議定書から既に離脱しています。
京都議定書で、削減義務のある
日本(4%)、EU、ロシアなどの国は、
世界全体のCO2排出量の28%しか占めないのに対し、
削減義務のない国々からのCO2排出量は72%にもなります。
(中国21%、アメリカ20%、インド5%)
さらに、新興国である中国とインドは
急激な経済成長に伴って、今後も年々、CO2の排出量は増大しています。
中国、アメリカ、インドにCO2の削減義務が課されないままでは、
今後もCO2は増え続け、
地球温暖化に歯止めをかけることはできないでしょう。
絵を描いてくれた王さんは言いました。
「人々は地球を傷つけていますが、このままでは地球は耐え切れません。
将来、水が一滴もなくなるかもしれません。
将来、鳥の住む場所がなくなるかもしれません。
将来、プラスチックのゴミだらけになるかもしれません。
将来...人類がその被害を被ることになるのです。」
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「わたしは中国の美しい自然が大切です。」
高向飛さん 20歳


世界の人口が増加し、同時に、
新興国(中国、インド、ブラジル、ロシアなど)の経済発展により、
今まで以上に(石油などの)資源の需要が増え、
”限りある資源”への獲得競争が激しくなっています。
中国は広大な土地と資源を持っていて、
世界のレアアース(希土類元素)生産の、
なんと97%を占めています。
レアアースは、
ハイブリッド車や電気自動車の蓄電池の原料として使われています。
そして、日本は需要の9割を中国からの輸入に頼っています。
中国政府は2011年から、
一部のレアアースの輸出税を引き上げました。
さらに輸出制限もしています。
レアアースをめぐる各国の獲得競争は、一段と激しくなっています。
また、中国は、増え続ける世界人口
(国連によれば、2060年に百億を突破)
にとって重要な、
農業(穀物生産)のために必要な化学肥料の元である、
「リン鉱石」の産出量が世界1位(世界の30%)です。
日本はこのリン鉱石を100%輸入に頼っていて、
今まではアメリカからも輸入していましたが、
アメリカのリン鉱石が枯渇してしまったために、
中国の四川省鉱山から購入していました。
しかし、2007年に起きた四川大地震で
生産量が激減してしまいまいました。
また、今後、輸出が制限されるかもしれません。
さらに、さらに、
中国が持っている資源は
レアアースやリン鉱石だけにとどまりません。
中国が持っているもう一つの資源、それが”水”です。
世界人口の、60%以上が暮らしているアジアですが、
アジアの水資源は、世界の36%しかありません。
(つまり、足りないのです。)
そして、水の供給先である国際河川の上流域の多くが中国にあります。
もしも、中国政府が、それらの川にダムを作って、
水の流れを止めてしまえば、
中国はアジア地域の水資源を独占することが可能になります。
そして今、中国各地でダムが建設されています。
水というのは人間が生きていくために最も必要な資源です。
中国がこの国際河川の上流域にダムをつくり、
水の流れを止めて、水資源を独占したら、
インド、パキスタン、タイ、ベトナムなどの
国際河川の下流に住んでいる国の人びとはどうなるでしょうか。
世界銀行の副総裁は
「20世紀は『石油』の争いで戦争が起こったが、
21世紀は『水で争うようになるだろう」
と言っていました。
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「わたしの夢見るふるさと」
張蘭さん 16歳

ほとんど知られていない問題として、
中国のHIV/エイズ問題が挙げられます。
中国南東部から台湾へと、拡がって行きました。
中国では、「売血」により感染者数が増大したとみられています。
中国には「売血」制度があり、
農村などに住む貧しい農民たちは
生活費を手に入れるために自分の血を売っています。
そのため、
エイズ感染者が、自分の血を売った場合、
エイズなどの病気が
「輸血」でうつってしまう可能性があります。
また予防接種などの注射時に、医療関係者が針を使い回しすることも、
HIV/エイズ拡大の原因となっています。
(麻薬などの薬物使用者の間でも、
注射器の針の使いまわしで、
HIV/エイズ感染が拡大しています。)
こうした問題に対し、
中国の人権活動家・劉暁波さんの妻、曽金燕さんらが
エイズで親を失った遺児らを支援するための
NGO(非政府組織)を立ち上げ
取組んでいましたが、
このNGOは、2010年11月に、
中国税務当局の強い圧力により、
活動停止に追い込まれてしまいました。
最近、チュニジアやエジプトなどで
政治改革を求めるデモが怒り、
独裁政権が、相次いで倒れていきましたが、
これに乗じて、中国でも、
デモを呼びかける情報がインターネットで流れています。
これに対し、中国政府は、
ネット閲覧を制限するようになりました。
しかし、チュニジアで起きた政変、ジャスミン革命にちなんで、
2011年2月20日に、
「中国ジャスミン革命」と呼ばれる運動が始まりました。
北京や上海などの13都市に、たくさんの人が集まりました。
中国では政府の権限が大きく、
国民による民主化運動が起こらないように、
様々な制約があります。
しかし、中国に今、
民主化の波が押し寄せてきているようです。
これからいったい、どうなるのでしょうか?
以上挙げたとおり、
中国は、急速な経済成長をしていますが、
経済の市場化によって、貧富の差が広がり、
自然破壊とCO2排出量の増大など、環境問題も起こしており、
様々な社会問題を併発しています。
それでも、
とにもかくにも、世界第二位の経済大国となった中国です。
中国の今後の動きに国際社会は注目し、
また、
中国の今後の動きと共に、国際社会も大きく変動してゆくでしょう。

・・・
・・・
絵と写真を集めた人:
1.青年海外協力隊・田中千代子
(2008年03月〜2010年03月)
2.山本敏晴(2000年頃)
画像データを編集し、文章を書いた人:
三雲千穂
編集完了日:
2011年2月24日
監修・校正:
山本敏晴
企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/