
バングラデシュは、アジアにある国で1億6000万人の人々が暮らしています。
「あなたの大切なものはなんですか?」
「わたしの大切なものはバングラデシュ。」
Ukraching Marmaちゃん 11歳


バングラデシュは、1)人口増加(貧困層の人口の増加)や、2)サイクロン(台風)などの自然災害が多いこと、3)ジェンダー・エンパワーメント指数(GEM、女性の社会進出度)が低いことなど、国内にたくさん問題を抱えています。
そういった環境の中でも彼らは毎日たくましく生きています。

多くの女性は、人が生きていくために必要な家事や育児、つまり再生産労働(男性が重要な仕事と、みなさない日常生活の雑用)をしています。
毎日の水汲み(川への往復に平均で2時間、煮沸消毒に20分)も女性の仕事です。
しかし、収入があるわけではないので女性は男性に依存する存在として見られ、女性が自立することを困難にしています。
こうした問題に対して、世界最大のローカルNGO(途上国側にあるNGO)の一つであるバングラデシュの「ブラック」(brac)はマイクロクレジットによる支援をしています。

マイクロクレジットは貧しい人々を対象とした援助で、小額のお金やお米、牛などを人々に貸し出すことによって、事業を開始するための手助けをし、収入を得られるようにし、低金利で少しずつ返してもらうというものです。
そして、小さいグループ(五人組)を作って(借金返済の)連帯責任を負わせることで(夜逃げなどを防止し)お互いを監視しあうことで、98%の高い返済率を維持し、大きな成果を上げています。
マイクロクレジットは、元々は、バングラデシュにあるグラミン銀行の、経済学者であるムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus)によって始まった新しい開発の形です。
彼はマイクロクレジットの提唱で、2006年にノーベル平和賞を受賞しました。
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「ぼくの大切なものは病院だよ。」
Sona Ratanくん 13歳

Ratanくんの実家は農家です。
しかし、農家は十分な収入がないため奨学金で勉強して、人のためになる仕事をしたいそうです。

バングラデシュは、妊産婦検診の受診率が低く、そのため出産前後において、適切な治療を受けることが難しいことや、1)出産時の大出血、2)子宮内への細菌感染(産褥熱(さんじょくねつ))、3)妊娠中毒症(妊娠中の高血圧による痙攣)などの緊急時に、その患者の輸送手段がないことなどから、妊産婦死亡率が高いのです。
こうした問題に政府機関であるJICA(国際協力機構)では、地域の保健医療サービスを充実させるために、NGO(非政府組織で、民間の国際協力団体)との連携による、1)母子保健サービスの質的向上と、2)サービス利用率の増加に取り組んでいます。
裕福な人や貧しい人に関わらず誰でも医療サービスをうけられるように地域住民に焦点を当てた「性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツ、出産の前後における女性の健康と権利の保護)」という概念のもと、多くの貧しい人が治療を受けられるように力を入れています。
病院というものは人々の生命線で、命を明日に繋げてくれる大切なものなのだろうと感じます。
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「私は田舎が好きです。」
(この子の名前は不明です。ロハガラさん?)


バングラデシュは自然災害が多く、多発するサイクロンにより多くの人がなくなっています。
2007年11月15日に起こったサイクロンの豪雨と暴風で死者は1万人と推測されています。サイクロンは一瞬のうちに多くの犠牲者を生み出しました。
そして、被災地の仮キャンプでは、(トイレの数が十分なく、また清潔な水が手に入れられないため)衛生状態が悪いため、(下痢などを中心とした)様々な病気が発生しています。特に子どもたちが犠牲になっています。
このため、ユニセフ(国際連合児童基金)は、長期的な栄養不良の問題に取り組んでいます。5歳未満の子ども約34万人と、妊婦また授乳中の女性12万4000人に、栄養補助食品を配布し、栄養状態の悪化を食い止めようと活動しています。
様々な災害が起こる中で、大切な家族や友達と支えあい、そして生きていくことが、絵を描いた彼女にとって一番大切なことなのだと思います。
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BOPビジネス(貧困層向けビジネス)という言葉を聞いたことはありますか?
BOPとは”Base of the Economic Pyramid”の略で「低所得者」または「貧困層」のことを言います。
今まで貧困層を顧客としたこのビジネスは、「お金がない」「文字が読めない」ため(企業にとっての)顧客や労働者とは考えられていませんでした。
しかし、製品やサービスの工夫によって、貧困層でも顧客や労働者になることがわかったのです。
そして、彼らのニーズ(その地域の人々が望んでいる物品やサービスなど)にあった商品を提供することは、彼らの生活環境を改善することにもつながっています。
今、このBOPビジネスが注目されています。
日本の大手企業ユニクロを経営するファーストリテイリングは、バングラデシュで、新会社「UNIQLO Social Business Bangladesh 」を立ち上げました。
そして、現地での「服の企画、生産、販売」を通してバングラデシュの「貧困、衛生、教育など」の問題に取り組んでいます。
ユニクロは「企業の社会的責任(CSR)」のために、これからも日本の企業をリードしていってほしいと思います。

社会企業(ソーシャル・ビジネス)として有名な企業に、マザーハウスがあります。服やハンドバッグなどを、バングラデシュで作っています。
社長兼デザイナーである山口絵理子さんは「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念のもと、2006年にこの会社を立ち上げました。
バングラデシュの「ジュート(麻)」や「レザー(革)」を使用した高品質のバッグを作っています。それにより、1)現地の人々の生活を支え、また、2)不当に低い価格にならないように配慮した商品の価格決定を行っています。
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「私の大切なものはショヒド・ミナールです。」
ナスリンさん 21歳


バングラデシュがパキスタンから分離独立するまで、現在のバングラデシュ地域は、「東パキスタン」として存在していました。

ショヒド・ミナールとは、バングラデシュの独立運動のきっかけとなったといわれるベンガル言語(『バングラデシュ』はベンガル語で『ベンガル人の国』という意味。)運動の犠牲者を祭っている国定記念碑のことです。
1952年2月21日、ベンガル語の対等な社会的地位を築くために活動していた主張者に向けて、パキスタンの警察隊が発砲し、たくさんの学生と政治活動家が殺害されました。
「僕の大切なものは独立記念碑。」
Shanti Bikash Chakmaくん 14歳


言語や宗教の違いからたびたび内戦を繰り返し、ようやく人々は、1971年にパキスタンから分離独立を果たしまし、「バングラデシュ」という国家を建国しました。
この少年はバングラデシュ人としてのアイデンティティをしっかり持っていて、この国を大切に思っているのだと思います。
「私の大切なものはバングラデシュの国旗よ。」
Selina Akthanさん 21歳


バングラデシュの国旗は、緑が豊かな大地を、赤い丸は独立に流された血を表しています。
お絵かきイベントに参加してくれたバングラデシュの多くの人たちが、ショヒド・ミナールや独立記念碑、国旗の絵を描いてくれました。
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バングラデシュは、自然災害やジェンダー(女性の権利)問題など、様々な問題を抱えています。
しかし、バングラデシュの人たちは、彼らの国に誇りを持っています。もしかしたら日々、恵まれた生活の中で暮らしている私たちよりも、自分にとって最も大切なものは何かということを知っているのではないかと思います。
そして自立への手助けとして、1)民間のNGOたちによるマイクロクレジット体制の確立や、2)日本政府によるJICAを通した地域の医療サービスの向上への取り組み、3)ユニセフの自然災害時における栄養不良問題への長期的な援助、4)一般企業や社会企業の貧困層への取り組み、などが行われています。
グローバル化が進み、ますます相互依存が深まる国際社会の中で、バングラデシュのような途上国が抱える様々な問題は、この国だけの問題ではありません。
私たちが負うべき責任を、もう一度見つめ直し、お互いに理解を深め合っていくことが大切だと私は考えます。

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絵と写真を集めた人:
1.横浜市立大学学生・中村友紀
(2010年10月)
2.青年海外協力隊・奥野麻衣
(2007年9月〜2009年9月)
3.青年海外協力隊・竹谷和子
(2007年12月22日〜12月30日)
4.青年海外協力隊・宮下遼士
(2010年03月〜2010年06月)
5.青年海外協力隊・平島綾子
(2009年11月〜2011年11月)
画像データを編集し、文章を書いた人:
三雲千穂
編集完了日:
2010年12月22日
監修・校正:
山本敏晴
企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/