2010年12月22日

バングラデシュ Bangladesh

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バングラデシュは、アジアにある国で1億6000万人の人々が暮らしています。


「あなたの大切なものはなんですか?」

「わたしの大切なものはバングラデシュ。」
Ukraching Marmaちゃん 11歳

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バングラデシュは、1)人口増加(貧困層の人口の増加)や、2)サイクロン(台風)などの自然災害が多いこと、3)ジェンダー・エンパワーメント指数(GEM、女性の社会進出度)が低いことなど、国内にたくさん問題を抱えています。

そういった環境の中でも彼らは毎日たくましく生きています。

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多くの女性は、人が生きていくために必要な家事や育児、つまり再生産労働(男性が重要な仕事と、みなさない日常生活の雑用)をしています。

毎日の水汲み(川への往復に平均で2時間、煮沸消毒に20分)も女性の仕事です。

しかし、収入があるわけではないので女性は男性に依存する存在として見られ、女性が自立することを困難にしています。

こうした問題に対して、世界最大のローカルNGO(途上国側にあるNGO)の一つであるバングラデシュの「ブラック」(brac)はマイクロクレジットによる支援をしています。


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マイクロクレジットは貧しい人々を対象とした援助で、小額のお金やお米、牛などを人々に貸し出すことによって、事業を開始するための手助けをし、収入を得られるようにし、低金利で少しずつ返してもらうというものです。

そして、小さいグループ(五人組)を作って(借金返済の)連帯責任を負わせることで(夜逃げなどを防止し)お互いを監視しあうことで、98%の高い返済率を維持し、大きな成果を上げています。


マイクロクレジットは、元々は、バングラデシュにあるグラミン銀行の、経済学者であるムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus)によって始まった新しい開発の形です。

彼はマイクロクレジットの提唱で、2006年にノーベル平和賞を受賞しました。


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「ぼくの大切なものは病院だよ。」
Sona Ratanくん 13歳

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Ratanくんの実家は農家です。
しかし、農家は十分な収入がないため奨学金で勉強して、人のためになる仕事をしたいそうです。

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バングラデシュは、妊産婦検診の受診率が低く、そのため出産前後において、適切な治療を受けることが難しいことや、1)出産時の大出血、2)子宮内への細菌感染(産褥熱(さんじょくねつ))、3)妊娠中毒症(妊娠中の高血圧による痙攣)などの緊急時に、その患者の輸送手段がないことなどから、妊産婦死亡率が高いのです。

こうした問題に政府機関であるJICA(国際協力機構)では、地域の保健医療サービスを充実させるために、NGO(非政府組織で、民間の国際協力団体)との連携による、1)母子保健サービスの質的向上と、2)サービス利用率の増加に取り組んでいます。

裕福な人や貧しい人に関わらず誰でも医療サービスをうけられるように地域住民に焦点を当てた「性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツ、出産の前後における女性の健康と権利の保護)」という概念のもと、多くの貧しい人が治療を受けられるように力を入れています。

病院というものは人々の生命線で、命を明日に繋げてくれる大切なものなのだろうと感じます。


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「私は田舎が好きです。」

(この子の名前は不明です。ロハガラさん?)

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バングラデシュは自然災害が多く、多発するサイクロンにより多くの人がなくなっています。

2007年11月15日に起こったサイクロンの豪雨と暴風で死者は1万人と推測されています。サイクロンは一瞬のうちに多くの犠牲者を生み出しました。

そして、被災地の仮キャンプでは、(トイレの数が十分なく、また清潔な水が手に入れられないため)衛生状態が悪いため、(下痢などを中心とした)様々な病気が発生しています。特に子どもたちが犠牲になっています。

このため、ユニセフ(国際連合児童基金)は、長期的な栄養不良の問題に取り組んでいます。5歳未満の子ども約34万人と、妊婦また授乳中の女性12万4000人に、栄養補助食品を配布し、栄養状態の悪化を食い止めようと活動しています。

様々な災害が起こる中で、大切な家族や友達と支えあい、そして生きていくことが、絵を描いた彼女にとって一番大切なことなのだと思います。


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BOPビジネス(貧困層向けビジネス)という言葉を聞いたことはありますか?

BOPとは”Base of the Economic Pyramid”の略で「低所得者」または「貧困層」のことを言います。

今まで貧困層を顧客としたこのビジネスは、「お金がない」「文字が読めない」ため(企業にとっての)顧客や労働者とは考えられていませんでした。

しかし、製品やサービスの工夫によって、貧困層でも顧客や労働者になることがわかったのです。

そして、彼らのニーズ(その地域の人々が望んでいる物品やサービスなど)にあった商品を提供することは、彼らの生活環境を改善することにもつながっています。

今、このBOPビジネスが注目されています。

日本の大手企業ユニクロを経営するファーストリテイリングは、バングラデシュで、新会社「UNIQLO Social Business Bangladesh 」を立ち上げました。

そして、現地での「服の企画、生産、販売」を通してバングラデシュの「貧困、衛生、教育など」の問題に取り組んでいます。

ユニクロは「企業の社会的責任(CSR)」のために、これからも日本の企業をリードしていってほしいと思います。



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社会企業(ソーシャル・ビジネス)として有名な企業に、マザーハウスがあります。服やハンドバッグなどを、バングラデシュで作っています。

社長兼デザイナーである山口絵理子さんは「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念のもと、2006年にこの会社を立ち上げました。

バングラデシュの「ジュート(麻)」や「レザー(革)」を使用した高品質のバッグを作っています。それにより、1)現地の人々の生活を支え、また、2)不当に低い価格にならないように配慮した商品の価格決定を行っています。


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「私の大切なものはショヒド・ミナールです。」
ナスリンさん 21歳

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バングラデシュがパキスタンから分離独立するまで、現在のバングラデシュ地域は、「東パキスタン」として存在していました。

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ショヒド・ミナールとは、バングラデシュの独立運動のきっかけとなったといわれるベンガル言語(『バングラデシュ』はベンガル語で『ベンガル人の国』という意味。)運動の犠牲者を祭っている国定記念碑のことです。

1952年2月21日、ベンガル語の対等な社会的地位を築くために活動していた主張者に向けて、パキスタンの警察隊が発砲し、たくさんの学生と政治活動家が殺害されました。

「僕の大切なものは独立記念碑。」
Shanti Bikash Chakmaくん 14歳

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言語や宗教の違いからたびたび内戦を繰り返し、ようやく人々は、1971年にパキスタンから分離独立を果たしまし、「バングラデシュ」という国家を建国しました。
この少年はバングラデシュ人としてのアイデンティティをしっかり持っていて、この国を大切に思っているのだと思います。


「私の大切なものはバングラデシュの国旗よ。」
Selina Akthanさん 21歳

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バングラデシュの国旗は、緑が豊かな大地を、赤い丸は独立に流された血を表しています。

お絵かきイベントに参加してくれたバングラデシュの多くの人たちが、ショヒド・ミナールや独立記念碑、国旗の絵を描いてくれました。

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バングラデシュは、自然災害やジェンダー(女性の権利)問題など、様々な問題を抱えています。

しかし、バングラデシュの人たちは、彼らの国に誇りを持っています。もしかしたら日々、恵まれた生活の中で暮らしている私たちよりも、自分にとって最も大切なものは何かということを知っているのではないかと思います。

そして自立への手助けとして、1)民間のNGOたちによるマイクロクレジット体制の確立や、2)日本政府によるJICAを通した地域の医療サービスの向上への取り組み、3)ユニセフの自然災害時における栄養不良問題への長期的な援助、4)一般企業や社会企業の貧困層への取り組み、などが行われています。


グローバル化が進み、ますます相互依存が深まる国際社会の中で、バングラデシュのような途上国が抱える様々な問題は、この国だけの問題ではありません。
私たちが負うべき責任を、もう一度見つめ直し、お互いに理解を深め合っていくことが大切だと私は考えます。


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絵と写真を集めた人:
1.横浜市立大学学生・中村友紀
(2010年10月)

2.青年海外協力隊・奥野麻衣
(2007年9月〜2009年9月)

3.青年海外協力隊・竹谷和子
(2007年12月22日〜12月30日)

4.青年海外協力隊・宮下遼士
(2010年03月〜2010年06月)

5.青年海外協力隊・平島綾子
(2009年11月〜2011年11月)


画像データを編集し、文章を書いた人:
三雲千穂

編集完了日:
2010年12月22日

監修・校正:
山本敏晴

企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/

posted by お絵描きイベント at 19:06| Comment(0) | 日記

2010年12月02日

ニジェール Niger

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サハラ以南アフリカ諸国の中でも最貧国の一つであるニジェール。
この国は、人々の生活水準や経済の発展度合いを示す指標である人間開発指数(※)が、2007年に全世界177ヵ国中の最下位にランク付けられ、国民の6割が1日1ドル以下で生活しています。

(※人間開発指数とは、1)出生時平均寿命、2)成人識字率 (15歳以上)、3)初等・中等・高等教育総就学率、4)一人当たりGDP、以上の4つの指標から算出するもの。)

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「あなたの大切なものは何ですか?」

「私の大切なものは、村の学校と私のお母さんです。」

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ニジェールの成人識字率(国連開発計画(UNDP),2007)は、28.7%で、下から第三位。高校までの就学率(UNDP,2007)は、27.2%で、下から第二位と、教育水準においては世界でも最低ランクです。

また、ニジェールには約6,200人ほどの教員がいますが、その約8割が契約教員であり、そのほとんどが教育学に関する教育を一切受けていません。
他のサブサハラ諸国と比較しても、その低い教育レベルや政府の財政難により、初等教育総就学率52%、中等教育総就学率15%と低いのが現状です。(2006年時点)

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そうした教育現場や教育者が不足しているとゆう現状から、「学校」を大切だと答える彼女の、教育を欲する思いが汲み取れます。日本では「義務」である学校も、ニジェールの子どもたちにとっては大切な学びの場所なのです。

これらの現状に対し、国際協力機構(JICA)は、2007年4月から、住民参加型の学校運営を促す「住民参画型学校運営改善計画」を行っています。

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今回のプロジェクトでは、「教育開発10カ年計画(2003〜2012)」において、初等教育総就学率を2002年の41.7%から2012年には94%まで向上させることを目標としています。
また、ニジェールの中学生の理数科学力向上を目標し、質の高い教員の育成を目指したプロジェクトも行っています。

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「あなたの大切なものは何ですか?」

「私の大切なものは、赤ちゃんです。」

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ニジェールは、妊産婦死亡率が世界11位、五歳未満子ども死亡率が世界12位と、世界で最も当該死亡率の高い国のひとつです。(2008、WHO)
2008年のWHO調べでは、出生千人あたりの五歳未満子ども死亡率は、日本が6人なのに対して167人。つまり、生まれてくる子どものうち、およそ6人に一人が亡くなっているのです。

高死亡率の原因にはマラリア、呼吸器疾患、下痢症疾患が挙げられますが、特にマラリアは主要疾病の1位であり、そのほとんどがマラリアの中で最も死亡率の高い種類である熱帯性マラリアです。

子どもが亡くなっていくことが日常である環境に暮らす彼女にとって、「赤ちゃん」は儚く、大切な存在なのでしょう。
妊産婦死亡率、五歳未満子ども死亡率共に高いニジェールにおいて、子どもを生むことも生きることも、命懸けなのです。

国境なき医師団(MSF)は、こうした現状を受けて、ニジェールで繰り返される栄養危機に2001年から対応しており、2009年には、国境なき医師団の支援する栄養治療センターで8万6000人の栄養失調児が治療を受けました。

また、三井住友フィナンシャルグループは、CSR(企業の社会的責任)活動の一環として、ニジェールにおける産院での幼児と妊産婦のための医薬品の購入、ワクチンやマラリアの治療薬を住民に提供する事業に寄付をしました。

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「あなたの大切なものはなんですか?」

「森を守ることです。」

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ニジェールは国土の3分の2を砂漠が占め、北部は乾燥し、主な産業である農業は南部に限られています。しかし、南部全域がサヘル地帯(サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域)に属しており、近年砂漠化が激しくなっています。
また、森林の減少は、自然環境によるもののみでなく、人々が料理に使う燃料のために行う森林伐採も深刻な問題となっています。

農業が主要産業であるニジェール。既に国土の大半が砂漠であるのに、さらに砂漠化が進めば国の産業への影響は計り知れません。

こうした森林破壊への対策として、スペインバルセロナに拠点を置く「Tree-nation」は、ニジェール内の砂漠に巨大なハートの形になるように800万本の木を植える活動を行っています。
このプロジェクトでは、ウェブ上で一本千円から二万円の木を購入し、その木に名前とメッセージをつけることができます。
若手企業家により立ち上げられた、新たな収益モデルを持つ営利組織です。

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「私の大切なものは給水塔です。」

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自給農業が中心であるニジェールですが、降雨量は少なく灌漑も発達しておらず、水源も乏しいため、ほとんどは天水農業です。そのため降雨量に収量は大きく左右され、しばしば干ばつが起こります。

こうした現状に対し、日本外務省は、2009年、給水施設建設と施設の維持管理を目的に、7億3000万円の無償資金協力(お金を与えること。返さなくてよいもの)を行うことを発表しました。

森を守ることが大切だと言った少年も、給水塔が大切だと言った少年も、その背景にはこうした砂漠化に対する危機感が読み取れます。
生きていくためには木を切らなければならないこと。それを知っていながらも、「森を守ること」が大事だと答えた少年は、資源に感謝する気持ちを既に持っているのかもしれません。

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「あなたの大切なものは何ですか?」

「学校でドーナツを売ることです。」

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(残念ながら本人写真はありません。)

アフリカ諸国において、貧困による栄養失調は深刻な問題です。
ニジェールでは、3歳未満児がもっとも影響を受けており、その15.5%が急性栄養不良です。

幼い子どもたちの栄養不良率が高い理由には、年齢に適した食糧を入手できないこと、食習慣の問題、基本的な保健サービスが不足していることのほかに、女性や保護者となる人々に、子どもを守る情報、教育、支援サービスなどが行き届いていないこと等が挙げられます。

この絵を描いた少女も、家計を支えるために働いているのでしょう。お金を稼ぐことが生きていくことだと知っているからこそ描いた絵なのかもしれません。

これらの問題に対し、国連児童基金(UNICEF)は、栄養失調児に対し、母乳の推進や、補助食品の支援を目的とし、その目的達成のために、そうした活動を行う援助団体に対する援助を強化しています。

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以上挙げたように、ニジェールは現在、教育水準、妊産婦死亡率・五歳未満児死亡率や栄養失調、砂漠化による産業危機等様々な問題を抱えています。

また、同国は、ジェンダー不平等指数(2008、UNDP、計算できた138カ国中)が下から第三位であり、女性の権利保障環境が劣悪な国です。また、ジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)については、計算することすらできない(国が統計指標を集めることができない)国でもあります。

このように、様々な問題を抱えているニジェールですが、問題を抱えている国であっても、自分の国はやはり自分の国。
文化と開発の共存は難しい問題ですが、そのような環境の中で力強く生きる現地の人々と、国際協力団体とで協力し合い、少しでもこの現状を改善・打破し、よりよい国になることを願います。

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補足情報:
最新の国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書2010」では
ニジェールの「人間開発指数」は169ヶ国中167位。





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絵と写真を集めた人:
1.青年海外協力隊・原田唯
(2008年07月〜2010年7月)
2.青年海外協力隊・三浦
(2004年12月01日〜2006年12月31日)
3.青年海外協力隊・看護師・大野真理
(2010年04月28日〜2012年4月27日)
4.青年海外協力隊・山田直之
(2010年06月〜2013年6月)
5.青年海外協力隊・柿沼久美子
(2010年09月〜2012年9月)


画像データを編集し文章を書いた人:
周東明美

編集完了日:
2010年12月9日

監修・校正:
山本敏晴

企画・製作:
NPO法人・宇宙船地球号
http://www.ets-org.jp/

posted by お絵描きイベント at 13:53| Comment(0) | 日記